構造改革、民営化、市場原理主義の虚妄から、マインドコントロールを解くための参考図書館

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Water for All

郵政の次は、水道の民営化が狙われていることに対して警告する良書が出版された。世界の水道民営化の実態(作品社、1600円)のタイトルで、世界12ヶ国語で出版されているうちの日本語版である。

日本では公共水道の評判が高いために、水道事業が全体としては民営化を積極的に支持する声は少なく、政治的な課題には表面化していないが、世界では、水道の民営化が色々な国で行われた。外資企業が各国を訪れ、しかも、世界銀行や、○○開発銀行などの国際開発金融機関が後押しして、水道事業の民営化に踏み切った国も少なくない。

より近代的な技術で、よりよいサービスをより効率的に、しかも安価で、提供しますという耳障りのよい誘惑に屈服したが、世界中で料金の高騰、水質の低下、非効率が起き、しかも社会階層による水供給の差別を生み出した実態が赤裸々に解説されている。経済学的に、自然独占の状況であれば、競争よりも公共機関が、最高の効率、サービスの品質、公正な料金を達成できるという、論理を無視して、また、私的独占は、公的独占よりももっとたちが悪いという理論的なあるいは経験的な真理を無視する政策がとられた。

アルゼンチンでは、例のアメリカの札付き企業のエンロンが、ブエノスアイレスの水道事業を民営化して、ずたずたにしてしまった例を紹介しているが、惨惨たる失敗があり、協同組合による経営によって水道復活が図られていく事例が紹介されている。

コラムとして、ヨーロッパの二重基準、二枚舌についても触れられている。国内では水道は公共事業がいいとしながら、海外では民営化を促進するヨーロッパの貿易関係者の主張の二枚舌である。アメリカの郵政事業が国営でありながら、日本に対しては民営化を主張するようなものである。

その昔、水道の民営化事業を世界で手がけた、ヴィヴェンディ社のメシエ氏が、自慢げにテレビ局のインタビューにこたえるのを手近に見たことがあるが、フランスの水道会社の、スエズや、ヴィヴェンディ、などが主要な、多国籍企業であった。フランスのグルノーブル市では、市営に戻された報告も掲載されている。その市長が、水道企業の重役で後に汚職で逮捕された事件についても触れている。ブラジルのポルトアレグレ市、インドのケララ州オラファナ村、スペインのコルドバ市、アメリカの水道事業規制が成功例として紹介され、ドイツでは、水道の自由化は後退したが、最近では、近代化という名の下に民営化が勧められている実態が報告されている。

ラテンアメリカでは、一時期燃え盛った民営化の反動でもあるかのように、水道事業が光栄に戻される決断が相次いでいる。先述のアルゼンチンはもとより、ボリビアや、ウルグァイ、ペルーなどでの民営化反対運動が紹介されている。民営企業は水道ネットワークを広げるためには決して投資をしないという事実が、ラテンアメリカでは現実となっている。水を売り物にした結果が惨惨たるものであった。水は人権と憲法に記載させる動きまで現れたという。アメリカのベクテル社と、フランスのスエズ社との契約を終了させている。

イタリア、南アフリカ、フィリピン、インドネシア、中国での民営化の失敗例を、描いている。驚くべきことに、共産主義国の中国でも、水道事業の外資参入が行われ、水供給のインフラの劣化がいよいよ進んでいる実態も紹介されている。三億六千万人の人口は、まだ、水道サービスがないにもかかわらず、外資企業だけを儲けさせ、市などの自治体は、損害をこうむる構造には、汚職の構造があるとも結論付けている。一党独裁であるから、水道の問題についての国民の怒りもデモなどで表現されることはない。水道職員と利用者の便益を犠牲にして中国の水企業は巨大化しているようである。

世界銀行や、○○開発銀行が水道の民営化を条件にして融資することなどは即刻ちゅうしすべきと主張している。日本は、アジア開発銀行にも影響力があり、また国内の海外援助を担当する国際協力銀行などが、こうしたアメリカの市場原理主義の後追いをするような融資条件をつけることを認めてはならない。日本が二枚舌になってはならないのである。

最後になるが、フランスのヴィヴェンディ社のメシエ会長は失脚したが、最近サルコジ氏が大統領になった。また来た道をフランスはたどろうとする恐れもある。ヨーロッパの二枚舌で、例えば電気通信などでもオークションの採用など、いかにも理論があるようで現実的には失敗する政策を海外で押し付けたこともあるので、要注意だ。

公共財を私物化する破綻例と、私物化された水を、国民の権利として取り戻すために活動している事例を豊富に例示する良書だ。日本の自治体関係者もぜひ読んでほしい。末尾には労働組合の関係者による座談会があるが公平を期するために、水道事業の公的管理者にも参加させればなお良かったと思う。

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