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Market Fundamentalism 5

ドイツポストのクラウス・ツムヴィンケル社長は、脱税容疑で当局の捜査を受けて失脚した。 Zumwinkel_and_takenak

 2月14日の早朝、ドイツポスト本社とケルン郊外の別荘が家宅捜査され、昼には護送、同日午後に保釈された。政府閣僚もツムヴィンケルが脱税を認めたと確認しており、翌日、ドイツポスト社長とドイツテレコム経営委員長の職を辞任した。脱税額は100万ユーロ(約1億5000万円余相当か)。リヒテンシュタインのファンドの秘密口座を使って1000万ユーロを国外に送金し、さらにケイマン諸島やカリブ海の租税回避地に再送金する気配もあったとドイツ誌は報道した。リヒテンシュタインの秘密の口座リストが漏洩し、それをドイツの情報当局が購入して、内偵が進められた。

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 ツムヴィンケルはドイツポストのトップの座を90年から18年にわたって務め、90年の郵政民営化を達成、アメリカの物流会社を買収して、ドイツの郵便事業を世界的な物流企業に変身させた成功物語の主人公であっただけに、衝撃的な脱税事件となった。郵便貯金の民営化も実施して、花形経済人として君臨したが、一朝にして落ちた偶像となった。事件はニューヨークにも飛び火した。

 ツムヴィンケルは、モルガン・スタンレー社の社外重役も務めていたが、同社は、ツムヴィンケルを再任しないと発表した。米国内国歳入庁は「海外への資産逃避による租税回避との戦いは重要だ。税制の悪用を防ぎ、納税者が確実に義務を果たすよう務める。租税回避や脱税の隠れ蓑となる場所などありえないことを一連の捜査で明確にしたい」と発表した。米国とオーストラリアの共同捜査、それに、スペイン、イタリア、スウェーデンの当局など、OECD加盟国9カ国の捜査の動きが見られる。

 一連の捜査は、史上最大の脱税捜査となっているが、情報当局が部外秘の脱税顧客の名簿を500万ユーロ(約8億円)で入手したこともまた話題となっている。 以上がドイツの脱税事件の途中経過である。以下、ツムヴィンケルと、日本の郵政民営化との関係についておさらいをしてみたい。

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 ツムヴィンケルが日本のメディアに登場したのは、2002年の5月頃からである。当時の小泉首相を訪問して、東京からのドイツの郵政民営化調査団の受け入れなどについて意見交換を行っている。会談には、後にドイツポスト例賛本を出版した元政治家も同席している。その時点では、翌年の4月には郵政公社の発足を控えており、民営化の議論は沈静化したものと考えられていた。

 しかし、生田正治氏が初代の郵政公社総裁に着任した直後の5月には、小泉総理は郵政民営化論を声高に蒸し返している。竹中大臣は、2004年1月に訪独して、ツムヴィンケルと共同記者会見を行っている。

 ツムヴィンケルが郵政民営化の伝道師としての姿を表したのが、2005年1月17日に官邸で開かれた、いわゆる「官邸コンファランス」で、ここでツムヴィンケルは基調講演を行っている。これが鮮明に記憶に残っているのは、この日は阪神大震災10周年の記念日にあたり、追悼式典が関西で開催されたにもかかわらず、総理が追悼式典を欠席して、郵政民営化を推進する欧米の市場原理主義者との官邸会合を異様に優先させたからである。

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 ツムヴィンケルは、1943年生まれ。ミュンスター大学卒業の後、アメリカに留学。ペンシルバニア大学ウォートンスクールで、経営学の修士号をとり、74年にマッキンゼーに就職。経営コンサルタントの道を歩んで、同社のシニアパートナーという幹部の地位に達した。

 ドイツポストが、同コンサルの顧客であったか否かは定かではないが、マッキンゼー社は、カナダや、ニュージーランドで、郵政民営化を手がけたコンサルとして知られている。そのためか、ツムヴィンケルが、ドイツポスト総裁に就任した当時には、世界の郵便関係者の間で、利益相反のインサイダー人事ではないかとの、ひそひそ話が続いた。

 郵便貯金の廃止を声高に主張していた全国銀行協会の会長職にあった元頭取が、日本郵政の民営化準備会社の社長就任の際に話題になった利益相反の問題と同様であった。郵政民営化の有識者会議や、道路公団の民営化の委員などに、同コンサルの社員が重用され、郵政公社においても、同コンサルの経歴を持つ大学教授が社外重役に就任したし、また、昨年10月の民営化の際には、有識者会議に委員として参加していた社員が、民営化と同時に郵政公社の幹部に登用されたのは驚きであった。

 僅かに公表された情報をつなぎ合わせて、市場万能の拝金主義のおりなす蜘蛛の巣の糸を手繰って、構造改革による日本の破壊を分析することが必要である。そうすれば、世界で進む郵政民営化をはじめとする、新自由主義政策の本質を見抜くことができるのだ。ツムヴィンケル失脚は、そういう意味で最適の素材である。

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 OECDは、先年、35の租税回避地リストを発表したが、デラウェア州やネバダ州のように、国内で会社の情報開示を求めない国もある。日本でも、金融特区と称して、租税回避地の創設をあたかも改革と称するような提案もあった。

 拝金のグローバリズムが跋扈する中で、しかも、全面ユーロ高ドル安の絶妙のタイミングを捉えて、財産の海外移転、長年の脱税を続けたツムヴィンケルを、モルガン・スタンレー社の社外重役にあることを知りながら、捜査に踏み切ったドイツ当局に、面目躍如・用意周到・変法自強の気迫が感じられる。

 日本でも、郵政民営化の本質とされる金融非金利分離と、資本の海外流出との相関を解明することが、なお必要である。租税回避地への脱税目的の資金移転をして、晩節を穢したツムヴィンケルの失脚で、郵政民営化の本質的な欠陥と陰謀が露呈しつつある。 追従の政治家と、守銭の経営者の背後を究明する可能性が広がった。

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