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Kuroshio 7

貝の広がりも、黒潮の豊饒に連なっている。貝の漢字は、宝貝の象形文字からできている。宝貝は、豊饒の権威の象徴であり、ポリネシアの酋長も古代史なの王朝の貴人も首飾りにしている。ボストンの隣町のケンブリッジにあるハーバード大学に付設される燕京(エンチン)研究所は、北京の精華大学がアメリカのキリスト教関係者が設立した大学であるから、それに連動して発足した研究所であり、日本を含む東アジア研究の中枢の場所であり、中国、朝鮮、日本の文献を大量に所蔵している。そこの談話室の壁に西太后の油絵が掛かっていた。西太后は、宝貝のネックレスをしている。シナの大陸の中に貝があるわけがないし、沿海にも宝貝は算出しないので、原産はどこかと言えば、日本の南西諸島と推測することが容易い。シナが琉球と呼ぶ所以である。宝貝は、黒潮のはぐくむ珊瑚礁に住み着いているから、沖縄本島と宮古島との間にある、大潮の時には海面に姿を現す、大珊瑚礁に算出した貝がはるばると朝貢貿易で運ばれて、西太后の首飾りになったものと思われる。南シナ海の群島も勿論大産地である。逆に、春秋戦国時代の燕の国の明刀銭が、竹富島で発見され、前漢に初鋳造された五銖銭が出土しているから、逆の交易路を伝って、シナの大陸に浸透したのは、駆虫薬としての海の海草の海人草だけではない。琉球王朝になっても、大明帝国になんと五百五十万個の宝貝を朝貢した記録があるという。一六世紀の、最近の話である。

 大日本にはそもそも発想がなかったので免れたが、奴隷貿易の通貨ともなった。インド、アフリカでは、収奪の媒介手段として機能した。インド洋のセイシェルなどと貝を思わせる群島があるように、モルジブなどの珊瑚礁のある島嶼からそこから大量に採取して、帆船で運搬している。豪州で金鉱が発見されてマルクスの世界革命の予想が頓挫して、西洋の植民帝国主義が延命するが、それ以前には、豪州の珊瑚礁や南太平洋の島々も、貝殻を大量に供給して植民地経営の根本手段を提供した。文字通りの宝箱であった。イギリス本土近くで、難破した船には、何トンもの宝貝が積まれていたために、それが海岸に流れ着いて、宝貝が北海で獲れると思い込む者もいたほどであり、その時代の名残で、収集家もおり、珍しい宝貝は今なお高価で取引されている。英語で宝貝をカウリーと言うが、ヒンズー語からの借用である。ちなみに、宝貝を、古語の残る南島では、ワンニャクを呼ぶ。子安貝とも呼ばれるが、これは八丈あたりで産する大きめの宝貝であろうし、その形状から名付けたものだろう。南島では宝貝を算出する珊瑚礁をヒと呼ぶが、女性の性器もヒと呼ぶ共通性がある。火をヒと呼ぶようになっているが、松明(たいまつ)の言葉に残るように、火はマチと呼ぶのが古の言葉であるとすれば、松明は大きな火の意である。三島由紀夫の小説「潮騒」の若い男女が結ばれる場面では、その火を跨いでこいと呼びかけるが、火でヒを象徴しているように読める。宝貝ばかりではなく、その他の貝も腕輪などの装飾となり、珊瑚礁の海に生息するゴホウラ貝やイモガイなどの巻き貝の飾りなどは、北海道の貝塚からも発見されている。貝塚は、世界的に見ても、東アジアの沿海域に濃密に分布している。東京湾の台地の端には、貝塚が集中している。洪積台地の端は、ほとんど貝塚ではないかと言うほどの集中である。紀伊長島あたりでは、民宿でホラ貝の刺身が供されるほどであるが、修験道のホラ貝は、月山や羽黒山に行っても、黒潮の海鳴りを思い出すための方法のようだ。大名の嫁入り道具のひとつである、絢爛豪華な貝あわせも、黒潮の豊饒の印である。二枚貝をミャーとかニャーと呼ぶが、宮に通じるし、神の社の根源に豊饒の二枚貝が見え隠れする。女子の名前の美奈子とは、貝の子供との意である。おみなには、生命がかかる。 

世界的な石油会社であるシェル石油の社章は、黒潮の貝ではないが、日本のホタテ貝である。横浜で創業者したユダヤ人、マーカス・サミュエルは、湘南の海岸で貝殻を拾いロンドンに送り財をなした。一八六六年に横浜にマークス紹介を設立した。ボルネオで石油を掘り当て、ライジング・サン石油会社を設立して、日本に送った。タンカーの一隻一隻に自分が拾った貝の名前をつけた。日清戦争では、日本に軍需物資を売り、台湾ではアヘン公社の経営に関わる。一九〇二年にはロンドン市長になっているが、日英同盟との関連を想像する。市長就任式に日本の駐英公使を招いて、行列の馬車に乗せたという。当時のイギリスには、ユダヤ人差別があり、海軍に石油を納入していたので反感を買い、後にロスチャイルドに買収されて、英蘭連合の会社として提携して、今は本社をアムステルダムハーグに置いて残るが、社章だけは、この会社が続く限りホタテ貝とすることを譲っていない。日本には、ユダヤ人を排斥した歴史はない。朝鮮系米人で、ワシントンで事件を起こした著名のロビースト氏も、父親が平壌にあったシェル石油の総支配人であったと述懐していた。

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