構造改革、民営化、市場原理主義の虚妄から、マインドコントロールを解くための参考図書館

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Realities and Hopes

郵政民営化の議論は、ほぼ20年前に遡ることができる。政府調達協定の交渉の中で郵政事業のための資材調達を自由化せよとの主張があり、それが波及して、経営形態論となっていった。この歩みは電気通信分野における資材調達の自由化が、日本であれば日本電信電話公社の民営化の圧力と軌を何時にしているのと同様である。ただし、郵政分野の資材調達は、電気通信分野と異なり、労働力集約産業であり、その市場規模も遥かに小さいことから、政府調達協定の枠内に入ることが大きな議題となることはなく、経営形態論と直結して議論が行われる場合がしばしばであった。直裁に述べると、電気通信の場合には、外国企業の製品の調達と関係しており、郵政民営化の場合には、そうした製品調達とは関係なく、保険市場と国債市場の問題が背景にあったものと考えられる。ヨーロッパに見られるような、各国の郵政当局の主導権争いの要素もなかった。

世界的にはまず万国郵便連合で議題となった。

万国郵便連合の本部は、スイスの首都であるベルンにあり、国際電気通信連合についで最も古い政府間国際機関である。まず表面化したのは、国際高速郵便の問題である。当時、アラビア半島やペルシア湾で、国際石油資本による石油掘削が大規模に開始され、その拠点と本国との郵便確保のために、高額ではあっても確実に届けることの出来る国際高速郵便制度の導入が模索された。もともとは米国の軍需物資の航空会社を発足基盤としてアメリカ企業であったが、ドイツポストの資本参加を得て、ドイツ企業となったDHL社が有名であるが、こうした会社が独自の文書配送システムを開始して、、ユニバーサルサービスの義務である郵便制度の枠外として承認された。フェデラルエクスプレスの設立は、北米大陸を中心としていわゆる物流革命を起こすことになり、航空機搭載を行い、集積点をつくり、一夜のうちに集荷、区分、配送を高速で行う世界的な物流システムが急拡大した。急送市場と呼ばれる小荷物配送の市場が成立した。

従来郵便物として定義されたものが、高額であっても信頼性の高い高速配送を必要とする郵便物が、上記の理由で、ユニバーサルサービスの規制対象外として導入されたから、世界各国の郵政庁は、収益率の高い国際郵便市場を失うと言う危機に直面して対抗して開発した郵便商品がEMSである。従来の世界的な既存の国際郵便ネットワークを利用しながら、出来るだけ低料金でサービス提供を行うことを目的として導入された郵便商品である。国際郵便分野に限れば、経営形態論の広がりはほとんど見られず、追跡システムの導入など、システム近代化論の方が主流であった。

世界的に、航空機による物流革命が喧伝される中で、各国における国内郵便事業の劣化が問題となり、そこで登場したのが、経営形態論である。

まず、国営、公社、国有企業、民営企業の四つの選択肢の中で議論が行われた。議論の中心を担ったのが、国際的な会計法人で、例えば、クーパーズ・ライブランド等という、当時の有力な会計会社が議論の口火をきることがしばしばであった。万国郵便連合の会合にも非公式のオブザーバーとして積極的に参加した。そうした会計法人が、世界的なコンサルタント会社に変貌していくわけであるが、特にマッキンゼー社は、郵便の民営化について世界的に活発な動きをした。

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ロンドンに本社を置くトライアングルなどの物流コンサル会社は、郵便制度の競争力強化は、物流のシステム制度の改善の面からの取り組みが必要であると主張していたが、議論は、徐々に経営形態論に比重を移すことになり、経営改善そのものが議論とはならず、世界的な郵便制度の改革が経営形態によって行うべきであるとの主張が行われていった。万国郵便連合の中では、政府機関としての会合と、事業運営体としての会合が、水平分離された。特にヨーロッパでは、ヨーロッパ統合の動きの中で、各国の郵便権益をめぐる主導権争いが背後にあって、競争優位を目指すかのように、スウェーデン、オランダ、デンマークの郵政庁などが強硬な民営化論を推し進めた。郵政当局の間の意見の乖離と対立が目立つようになり、先述のEMSの場合には、ドイツ、フランス、オランダ、スウェーデンなどがその取り扱いを停止する事態にも発展した。日本から送達されるEMSは、各国の民間企業によって配達されるというような事態も発生していた。

イギリス、アメリカ、日本の三国の郵政庁が中心となって、EMSの品質改善と追跡システムの導入などを積極的に推進したが、大陸ヨーロッパでは、民営化によって、郵便制度の強化を図るべきであるとの主張が強くなり、特に、オランダでは、もともとは、豪州の物流企業であるTNTを招致して、国際郵便の民営化の軸として世界的な展開を図った。アジアにおいても、フィリピンのスービックの元米軍基地の飛行場を利用して、中古の航空機を調達してアジア全域への高速郵便輸送を展開するとして、台湾のEMSシステムの離脱が工作された。アジア各国の郵政庁はこの動きに同調しなかったために、TNTは市場を拡大することが出来ず、結局撤退したが、郵政公社が発足してまもなく、国際物流企業への進出が話題となったが、そうしたオランダ政府の意図と深く関連していることが想像できる。日本郵政公社の提携先がTNTであり、バラ色の未来の国際物流進出として喧伝されたが、既に、同社は、物流のアジア展開は失敗しており、見方を変えれば不良資産の物流ビジネス部門を日本に肩代わりさせる可能性があったことが推測され、北京の郵政当局の関係者が、日本郵政はヨーロッパの植民地主義の肩を持つのかとの揶揄する発言も伝えられていた。

市場原理主義が、シカゴ大学の卒業生(シカゴ・ボーイズ)を中心にした経済学者が、中南米の閣僚など有力な経済政策を推進したために、中南米では郵政民営化が世界に先駆けて行われた。経営形態論が取り上げられた万国郵便連合の会合においても、アルゼンチンの代表などが郵政民営化の成功を高らかに宣言したが、わずかに、数年後にアルゼンチン経済はデフォルトに陥り、郵政民営化自体が瓦解したことはよく知られている。その後、アルゼンチンでは、郵政を再度国有化している。

ニュージーランドでも、中南米同様、国際競争力が著しく向上したなどと、八〇年代前半には喧伝され、市場原理主義導入の優等生として、国家を上げてあらゆる分野で民営化政策を導入したが、失敗した国家の一つである。ニュージーランドでは、大学、図書館、航空会社、電力会社、病院に至るまで、あらゆる公的な分野に民営化を導入したが、そのいずれも失敗に帰して、大量の雇用人口の国外流出がおきた。マドリッドで開催されたGBDeの会合で、ニュージーランド人の事務局員から、ホワイトカラー層の人口の海外脱出が大量に発生した詳細を聴取したことがある。また、航空会社や通信会社など大方の基幹産業が外国企業に買収されるという事態が発生して、政権交代が行われて、政策転換を行った。小泉首相(当時)が就任後、ニュージーランドを訪問したことがあるが、その当時既に、郵政民営化は失敗しており、初の女性首相であるクラーク首相(当時)に民営会社のポストは使われているかと質問して、それは使われていないとの返答があったことが報道された経緯がある。日本国内では、日本経済新聞を中心として、ニュージーランド郵政の民営化を成功例として賛美して報道することが通例であったので、ニュージーランドの失敗が顧みられることはなかった。ちなみに、ニュージーランドで、民営化政策の後押しをしたのは、マッキンゼー社であると言われている。

しかし、郵政民営化論の前哨戦となったオランダ物流企業のアジア進出の失敗や、中南米とニュージーランドの郵政民営化の失敗は、世界的には顧みられることがなく、ヨーロッパでは、強力に自由化政策として推し進められた。1997年、ヨーロッパ連合は、郵便市場の規制緩和を自由化政策の一環として公式にみとめ、郵政改革を正式の議題として検討することを、拘束力のある指令として発出した。つまり、郵便の独占領域を段階的に縮小して、2009年までに市場を完全に自由化するというものであった。当時のヨーロッパ連合の予測では、指令発出後の10年後には、郵便はグローバルな市場で競争している、北米とヨーロッパの郵政はすべて民営化され、国営独占事業体は消滅している、料金は、市場原理で決定されており、料金は安くなっている、ダイレクトメールなどの料金は、2~30%は低料金となり、ユニバーサルサービス、すなわち、不採算地域に対する配達義務は、一つの郵便事業体がになうものではなく、国家の責任で行う、等としていた。

予測はことごとく外れる中で、郵政民営化が行われたのは、オランダとドイツのみである。一部を民営化したのが、オーストリア、ベルギーとデンマークである。イタリア、イギリス、スペイン、スイス、フィンランド、フランス、ノルウェー、スウェーデンといった国々では、依然として国営の経営形態を守っている。イギリス政府は、最近、民営化の議論そのものの棚上げを発表している。民営化を果たしても、株式公開に至ったのは、オランダ、ドイツ、オーストリアの三カ国に過ぎない。オランダの場合は、もともと先述のTNTという国際物流企業の後押し戦略をとることで、郵便事業の経営主体となった経緯があるからである。

詳細をみると、オランダの民営化は、民間部門が100%株式を保有しているが、ドイツは、69%、オーストリアが、49%、ベルギーが50%、デンマークが25%を民間部門に放出している。ここでわかるように、オーストリアは、過半数の株式を国が保有しており、ベルギーは、黄金株と呼ばれる、最後の拒否権を行使できる株を一株国が保有している。デンマークは、社員保有株を3パーセント配分しているが、他の75%は国有である。すなわち、「民営化」と言われていても、その内実は、国有企業体である。

米国では、日本に対しては郵政民営化を強力に推し進めるべく外圧を加えたが、2003年、ブッシュ政権が発足して直ちに検討開始した、大統領委員会は、連邦政府の独立行政機関であるUSPS(ユナイテッドステイツ・ポスタル・サービス)を強い独占分野を残したままで、国営政府機関として存続することを決定している。この郵政民営化委員会の議論の資料は、ネット上でも公開されている資料であるが、小泉・竹中政権では、米国の郵政国営維持の決定は参考とされず、専ら、金融資産の観点に偏って検討されることとなり、郵政民営化が強行された。在京の米国企業で構成する在日米国商工会議所は、ベストエフォートの郵政民営化を喧伝したが、自国における国営形態維持の意見を顧みない二重基準(ダブルスタンダード、二枚舌)による主張であった。(筆者の米国人の友人は、郵政民営化をめぐるシンポジウムに参加するため来日した際に、同商工会議所が発表した英文報告書の文体を評価して、強圧的な文章だと鑑定したことがある。)

また、一部には、強力な政治ロビー団体である、全米保険協会が医療保険を敵視して、日本の医療保険を米国型に改変するために、障害となる可能性のある簡易保険制度の廃止を強く求めるために、郵政民営化を後押しした。米国政府の貿易代表部の幹部であった者が、在京の米国系保険会社の社長を務めるなどした。米国では、公的医療保険制度の導入を目指す新政権が成立したこともあり、郵政民営化をめぐる日本における外国企業等の動きの背景と謀略は、徐々に明らかにされていくものと思われる。マイケル・ムーア監督による映画「シッコ」は、米国の保険制度の欠陥を指摘して話題となった作品であるが、全米保険協会の政治的な影響力について解説している。

 カナダは、公社形態で事業運営が行われている。カナダの郵政民営化に際しても、コンサル会社のマッキンゼー社が関与していたとされるが、ニュージーランドなどと同様に英連邦諸国の一員であるために、ニュージーランドの失敗例の情報が迅速に共有され、一方的な民営化論の広がりが抑制され、カナダの郵政民営化論はその後大きく後退している。

 ドイツの場合には、69%の株式を民間部門に放出した株式会社の形態をとったことは先述したが、ドイツの民営化には、コンサル会社のマッキンゼー社が関与はよく知られている。民営化後のドイツポスト総裁に就任したツムヴィンケル氏は、もともとマッキンゼー社の社員で、民営化作業の受託者であったが、顧客先の総裁に就任したことから、郵政関係者の中ではマッキーという仇名がつけられていた。利益相反の可能性が指摘されていた。(日本の郵政民営化においても、マッキンゼー社の社員が、しかも郵政民営化をめぐる有識者会議などに直接関係しながら、重役に就任している。)

 ツムヴィンケル氏は、郵政民営化の伝道師あるいは広告塔としての役割を果たして、日本の郵政民営化についても声高に主張して、小泉政権当時、首相官邸で行われた官邸コンファランス」において基調講演を行っている。日本では、マッキンゼー社の他に、香港上海銀行の関係者や、民営化・規制緩和を支持する政治家との繋がりが指摘されていた。更に、ツムヴィンケル氏は、閉鎖的で有名な有名なビルダーバーグ会議の会員であると目されており、また、モルガンスタンレー社の社外重役を務めていたとの報道が散見される。

ドイツポストは、90億ドルにのぼる金額をアメリカの急送市場と呼ばれる物流市場に投資をしてその間、DHLを買収して子会社化したが、華々しい国際物流市場への参加ではあったが、毎年赤字を出し続けている。更に追い打ちをかけたのが、ドイツポストの金融部門である、ポストバンク(日本の郵便貯金部門に当たる)が、サブプライムローンの問題と直結する莫大な不良債権を抱えていることが発覚して、2007年の決算期には破綻する可能性すら報じられたが、国内の郵便局施設などの不動産を担保にして借り入れを行って急場をしのいだ。現在、買収した物流企業を身売りする相手を探している報道がしばしば行われている。

2008年1月にドイツは、国内郵便の独占領域を廃止して完全自由化を行ったが、その際に、表裏一体の政策として、郵便事業における最低賃金制度の導入を図っている。つまり、新規参入の事業者が賃金を不当に低くすれば、公平な競争が行われずに、ユニバーサルサービスが維持できないので、最低賃金を導入したわけであるが、逆に、この制度導入によって、新規参入事業者は破産状態に陥って、事実上ドイツポストが、国内郵便の独占を続けるという奇妙な結果となってしまった。2008年、2月14日には、ドイツ政府は、脱税スキャンダルで、ツムヴィンケル総裁を逮捕している。ドイツの郵政民営化は、買収と拡張戦略を伴いつつ、外国の金融資本と提携して、特に米国の投資ファンドと連携するビジネスモデルが破綻したことを象徴するものであった。

 ヨーロッパ各国では、ドイツの郵政民営化の失敗例を教訓として、伝統的な経営モデルを再評価する方向にある。また、買収と拡張戦略ではなく、従来からの得意分野に特化するいわゆるコアビジネスの再評価と改革に挑戦する方向にあると見ることが出来る。

 日本の郵政民営化の過程であれほど喧伝された国際物流の相手方として登場したオランダのTNTは既に国際ロジスティックス部門から撤退していることは、先述した。更に、TNTは、オランダ郵政の金融部門からも撤退している。保険会社であり、ライオンのマークで著名な金融会社のINGと提携して郵便局の窓口サービスを提供したが、その提携関係も解消した。TNTは、全面撤退に伴って、当初の人員整理を7000人規模としていたが、一万一千人規模にふくれあがっているとの報道であり、民営化の目的が達成されずに、却って雇用問題を惹起することとなっている。日本でも、日本郵政と、日本通運とが、業務提携を行い、また、共同で子会社を設立するなどしての協業化が見られたが失敗している。郵便制度と物流制度との本質的な相違についての理解が欠落していた可能性がある。

 ヨーロッパで、ヨーロッパ連合の指令が発出された10年前とは大きく状況が異なり、市場原理主義的な郵政民営化路線は大きく後退している。ヨーロッパ連合の委員長が、市場原理主義は最早万能ではないと明言する事態に至っているし、無制限なグローバル化の方向の見直しについても言及しており、フランスのサルコジ大統領は、「競争がイデオロギーとドグマになっている、保護主義は最早タブーではない」とも発言している。これまでのヨーロッパ連合の指令の基本になった市場原理にもとづく競争原理の修正と、規制緩和の修正、そして、民営化路線の修正が主流となった。

 2007年6月に開催されたヨーロッパ議会では、2009年からヨーロッパ域内の郵便市場を完全自由化するという委員会の原案を反対多数で否決している。全面反対ではなく、決定を二年繰り延べるという妥協案も採択されているが、その後の世界的な金融危機があり、市場原理主義的なヨーロッパの動きが止まったことはほぼ確実である。

 イギリスでは、2006年から国内郵便を自由化したが、自由化の利益が家計や中小企業には利益がなかったとされ、また不公正競争がおこなわれ、大口の利用者が単純に浸食されるだけの結果を生んだだけだとの指摘もあり、郵政民営化の棚上げを決定する事態となった。

 イタリアの郵政事業は、予想に反して堅調な経営を見せている。コアビジネスに集注する経営を続けたことから、却って世界的な金融危機などの影響が最小限に留まったとする。

 世界的な金融危機の中で、郵便事業部門は、各国共に大きな影響を受けたが、とくに、郵便物数は、国内の景気、特に金融部門の動きと関連する要素が大きいところから、落ち込みがもっともはげしかったのは、米国の郵政である。それに、つづいて、イギリスやドイツ、オランダで、日本も景気低迷による物数減が予想される。(国際郵便物数に至っては、貿易の指標とほぼ連想して予測が出来るから、逆に営業努力などの成果が、簡単に指標化できるのは興味深いところである。)物流部門などに関与せずに、コアに改善・改革の対象を絞ったイタリアやスイスの郵政の動きが、国際的な経税危機の中で堅調に推移しているのは、興味深い事実である。

 世界的な金融危機の中で、再評価されているのが、郵政の金融部門であり、郵便貯金である。商業銀行に対する信用の低下大きな要因である。ヨーロッパや、アジアの国々では、金融危機が伝えられると、銀行から郵便局の窓口に、預金を移そうとする利用者が殺到するという現象も伝えられていた。日本でも、地方銀行の不安が伝えられたことがあった十年前などに、帯封のついた現金の束にした顧客が郵便局の窓口に並ぶという現象が報じられたが、同様な事例が世界的にも報告された。経済危機の時には、当然ながら、郵便事業の経営が悪化するから雇用の問題が発生しやすくなり、郵便収入は大幅に低下する可能性がある。例えば後納郵便物が減り、また、不正が発生する蓋然性が高まり、郵便局の設置数なども減る可能性がでるが、郵便貯金については逆に増える可能性があるのが、通例である。

 米国は、1966年に、郵便局から郵便貯金を廃止してしまったが、今回金融危機があり、また、郵便局に郵便貯金事業を再開すべきだとの議論が起きている。

 フランスの郵便貯金も堅調である。フランス郵政の収入の23%を占めている。利用口座数は、1100万を超える。

 イタリアは、郵便貯金と、郵便局での保険の販売も行っているが、堅調で、郵便貯金部門は、クレジット口座のみで、350万口座を持っている。郵便局の保険部門は、イタリア最大の保険事業となっている。日本最大ではあるが、民営化後大幅に経営が悪化している日本のかんぽ事業とは異なる状況にある。

 スイスでは、スイスの二大銀行が、サブプライムローンの関連投資で巨額の損失を引き起こしたことが明らかに成ったときに、郵便局の伝統的な信頼に人気が出て、スイス国民が、郵便局に殺到する事態となった。新規の口座が急増したとの報告である。

 アイルランドでは、世界的な金融危機で最も打撃を受け、国家が破産するような状況に立ち至ったが、2007年に郵便貯金を開始していたので、却って信頼を得て、わずかに一年半の間に、1000を超える窓口サービスを開始したとの報告である。

イギリスでは、郵便貯金銀行設立を、ブラウン首相が公約したばかりである。

 中国では、郵便貯金は、郵政備蓄と呼ばれている。中国郵政の郵便貯金の制度は、日本の郵便貯金制度を導入したものである。後発であるが、既に、中国農業銀行、中国興業銀行等につづく、貯蓄量としては、第四の地位となっている。中国郵政は、2億三千万枚という天文学的な数の郵貯カードを発行したとの数字がある。郵便貯金は、36000の郵便局で取り扱われており、大多数の窓口は、農村地帯に位置している。

 ニュージーランドは、世界に先駆けて郵政民営化を実行して失敗し、その後に、郵便貯金銀行を再開した(キウィバンクとの愛称で呼ばれる)。経営は好調で、住宅ローンと、住宅保険の分野でもああ当的な市場シェアがあるとされる。世界的に郵便物が、金融危機の影響を受けて減少する中で、郵便貯金分野がなければ、郵便局自体が支えられなかった可能性があるとの発言を、ニュージーランド郵政経営幹部が発言している。

 さて、日本の郵政民営化は、発足して二年が経過したが、その経営状況の真相はどうだろうか。的外れの発言が、10月28日に解任された西川善文前日本郵政社長が民放テレビの番組に出演して発言した、「経営は軌道に乗っていた。前期(2009年3月期)の当期利益は4200億円とNTTグループに次ぎ二位」と誇示して、「早期に上場して、市場ガバナンスをねづかせなければならない」と発言したことである。郵政公社から株式会社に移行した前前期の利益である、2200億円に比べれば業績は持ち直したのであるが、その前の公社時代の4年間の各年の利益に比べると、半分以下の業績低下であるからである。2007年3月期の利益は4年間の最低な数字で、9425億円、最高が、2004年3月期のなんと、2兆3018億円であったから、4200億という数字は、評価に値しない数字であるにもかかわらず、軌道に乗ったとの発言は驚くべきものであった。また、貯金や、簡保の新規契約残高は著しく減少しており、更には、景気後退の側面から致し方ない面があるにせよ、郵便の取扱高は下落傾向にある。西川氏の経営手法は、世界の郵政民営化の現実に疎いことを露呈したような発言であった。

 世界の郵政民営化の現実を見てきたが、むしろ、国の信用を背景にして、経済社会の安定に貢献することが、公的金融サービスの信頼を得ており、また、コアビジネスの特化することで、金融危機のリスクを低減したことが明らかに成っている。

 日本の郵政民営化は、ドイツやオランダの民営化と同様に失敗に終わったことはほぼ確実である。

 今、郵政株式凍結法が成立して、市場原理主義的な経営手法を一掃することとして、日本の郵政の経営陣の一部更迭が行われた。今後の経営者に対しては、民営化で失敗して再興したニュージーランドのキウィバンクなどの堅調な経営や、ヨーロッパ統合の中で、堅調な経営に徹したイタリア郵政などの動きが参考になるものとも思われる。また、日本の郵便貯金制度を導入した中国の郵政備蓄の制度なども称賛されるべきものである。郵政民営化で、国際活動を大幅に削減して、国際的影響力を低下させた日本であるが、郵便貯金や簡易保険のビジネスモデルの海外普及の展開などが、今後期待されて良い。

 米国における郵便貯金の再導入の動きや、イギリスにおける郵便貯金銀行設立の公約の発表など、公的な小口金融制度を再評価する動きが活発化していることも注目に値する。

 世界の郵政事業は、経済危機の中でむしろ、今後は更に安定的に推移していくものと考えることから、日本からの世界の郵政関係機関に対するシステム供給の取り組み強化が必要である。特に、米国やイギリスで見られるような新たな郵便貯金銀行の設立の動きなどについては、情報収集に留まらず、具体的なシステムの提案活動が行われても良い。デジタルテレビ日本方式の標準採用の働きかけと同様に、中南米の郵政金融部門に対する取り組みの強化も行われてしかるべきである。

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コメント

わが国のマッケンジー出身の日本郵政役員は、先日解任された松原氏と共に「松原委員会」を運営し、郵政ファミリーの解体を進め、さらに、日通との交渉で、日通が株式を売って、ペリカンの経営責任からのがれることができる仕組みをまとめるなど多大な功績を残している。

投稿: 疎にして漏らさず | 2010年1月27日 06時46分

功績?

投稿: Orwell | 2010年1月27日 10時32分

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