Kuroshio 54
原発に代わりうる黒潮発電
川に入った海の波が激流となって遡る現象を海嘯(かいしよう)という。地震発生後に咆哮して海岸に押し寄せる波を昭和の初めまでは漢字で海嘯と書いていたが、津波と異なる。カナダのファンディー湾の最奥のニューブランズウィック州モンクトンで典型的な海嘯を眺めたことがある。英語はボアウェイブ(bore wave)で、壮観である。ファンディー湾は、潮の干満の差が世界最大とされ、十五メートルの潮の満ち干が毎日繰り返され、その湾の一番奥の町がモンクトンであるから、そこの川をめがけて、満ち潮が海嘯となって遡る。モンクトンは、海嘯を見ようとする観光客で一杯になる。干満の差の大きさは、同じカナダのケベック州で北極海に面したアンガヴァ湾も有名である。日本列島の近隣では、朝鮮半島の仁川の潮の干満の差が最大で約十メートルにもなる。朝鮮戦争の時に上陸する米国海兵隊が岸壁に日本製の梯子をかけてよじ登っている写真が残る。支那では浙江省の銭塘江の海嘯が「銭塘江潮」と呼ばれる旧暦の八月十五夜の干満が有名である。月餅を食べながら見物する。年によっては波高が九メートルで時速四十キロにもなり、堤防を乗り越える高潮となって見物客を押し流す事故も発生している。アマゾン川を逆流する海嘯がおそらく世界最大で、ポロロッカ、原住民のトゥピー語で「大騒音」を意味する名前がついている。大潮の時には約五メートルの波高で、時速六十五キロで逆流し、八百キロの上流に至る海嘯である。ベネズエラのオリノコ川でも海嘯があり、マカレオと呼ばれている。モンクトンには、ボアウェイブの他に、磁石の丘(マグネティツク ヒル)がある。車のブレーキをはずすと車がそろそろと坂道を上っていく錯覚に陥る幽霊坂である。周辺の風景との相互作用もあって、実際には緩やかな下り坂が続いているものが、緩い登り坂に感じる錯覚である。北米大陸を夏休みに自動車で回る旅行者が立ち寄る一大観光地となっている。
バングラディシュのガンジス川とプラマプトラ川でも、パキスタンのインダス川でも海嘯が見られる。マレーシアのルパール川にあり、マレー語で海嘯をベナクという。インドネシアのカンパル川では百三十キロ内陸に遡る。にもある。オーストラリアのクィーンズランド州のスティクス川、北部準州のダリ川にあり、ヨーロッパでは、セーヌ川に見られる。イギリスでは、トレント川の海嘯が有名で、マーシー川、セヴァーン川の河口がある。パレット川、ウェランド川、ケント川、ヨークシャー州のウーズ川、エデン川、エスク川、ニス川、ルーン川、リッブル川、がある。海嘯がアジール(Aegir)と呼ばれるが、これは、フランスで、マスカレット、地方では、バールと呼ばれる。ガロンヌ川、アルゲノン川、ヴィール川などに見られる。アラスカのクック海峡に流れ込むペチコディック川でも波高二メートル、時速二十キロの海嘯が見られる。バンクーバー島のニチナット湖でも太平洋への湖口で波乗りが出来る程の高波が発生する。ファンディー湾のシュべナカンディ川や、へバート川、マッカン川、サモン川でも海嘯が押し寄せているが、場合によってはモンクトンよりも高波で高速である。メキシコのコルテス海のコロラド川の河口でも見られたが、灌漑で水量が少なくなって今では消えてなくなった。南アメリカでは、アマゾン川の他、ブラジルのメアリム川、アラグアリ川にもある。
南の珊瑚礁の島でも一日二回の潮の干満を見るが、満潮はあっという間だから潮干狩りで珊瑚礁に取り残される事故がまま起きて、小規模の海嘯が毎日二回発生して黒潮を畏れ敬う縁(よすが)とする。奄美大島の北の横当島(よこあたりじま)をすぎた頃に、黒潮が東シナ海から太平洋に出る処で、米軍の輸送船とおぼしき貨物船が、レンズのような形で盛り上がった黒潮の川となった海面を滑るように北に向かっていたが、黒潮の流れを辿っているのであれば燃料の節約になることは間違いないし、沖縄行きの軍艦も八丈からの小さな船も黒潮反流を航海すれば沖縄と大東に楽に辿り着いた。当時の北米捕鯨船が帆船で黒潮の流れを頼りにしたことを知るならば、黒潮が列島に最接近する潮岬があり、勇魚(くじら)漁の一大拠点地太地があり、再生の熊野の聖地があったればこそ、近代勢力が黒潮文明を隷属させようと目の敵にしたことも不思議でない。
核(ニユークリア)発電を原子力(アトミツク)発電と読み替えて平和利用(Atoms for Peace)を目指したが、一部の国が核兵器を独占する燃料循環の口実となり、残念ことに最終的な処理の方法と場所も定まらず、核発電が支配的になるほどに、外国勢力への依存と従属が深まる矛盾に陥っていた。外国が設計・製造・施工した老朽化した原子炉の寿命を延長して利益の極大化を操作して、政治経済の主な権力を電力会社の神話とカネで釘付けにする追従勢力の腐敗の極点を衝いて、海嘯を遙かに超える日本の津波が、原風景に反する発電設備を破壊して、未曾有の核事故を誘発させた。黒潮は高さ一メートル、幅は百キロになり、莫大な発電エネルギーになる。その一端を開発すれば核の禍を超克する契機ともなる。黒潮の力で津波の禍を福へと浄化・転化して、日本復興の天佑とすべきだ。(つづく)
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