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Kuroshio 68

津波に対する黒潮の民の智恵

 地震があれば、津波が来る前に船を沖に出して津波をやり過ごすのが、黒潮の民の智恵の原則である。陸にある家より命ともいえる船と頭で分かっていても、皆が逃げている中で、わざわざ港の船に向かっていって、エンジンをかけ、沖に向かう為に係留索を解いて発進させることには、勇気が要る。しかも、船の大きさ、いる場所や速力など千差万別であり、一概には言えない。

 海上保安庁の巡視船が、津波を越える動画が公開されたが、荒天をついて救援に向かって出港する巡視船のように復元性の高い船ばかりではないし、ましてや、小型漁船でエンジンも外付けの船であれば、とても津波に逆らって立ち向かうために、地震が起きてすぐさまに、船に飛び乗って沖に向かうことには、「雄々しさ」が必要となる。岩手県の久慈で津波が押し寄せる中で出港する漁船の姿が映像となって残っているがその後はどうなったのだろうか。茨城県の那珂湊でも、すっかり潮が引いた中を慌てて出港する漁船の映像が撮影されているが、引っ返したようにも見えるが、その後は明らかではない。福島県の相馬では百隻以上を数える漁船がちゃんと沖に出て、津波をやり過ごして生き残った。

 天皇皇后両陛下は雨の中を視察され、漁師が必死で船を守った話を聞かれ、
 津波寄すと雄々しくも沖に出し
 船もどりきてもやふ姿うれしき
(一年後の平成二四年三月一一日午前五時一五分から六時までの日本テレビの番組で紹介)と詠まれた。

鹿嶋あたりでは、地震発生後四〇分くらいかかって津波が到達しているが、
それだけに大きな津波になると覚悟して、冷静に沖に船を出した向きは助かっている。漁師の中にも尋常でない揺れですっかり動揺して、津波が来るぞ,来るぞ、逃げろと退避していったのでつられて、陸の方に逃げた者もいたが、その人たちの船は悉く転覆したり、岸壁に乗り上げたりと無残な姿になって悔やみ切れない気持ちが残った。地震発生後すぐさま沖出しして、女川から金華山への連絡船を助けた勇敢なヨットマンの機転を尊敬するが、大型船の場合には、桟橋を離れることすら自力では難しい。津波の凄まじさに抗して難を免れる黒潮文明の智恵の基本に戻って、船長が決断して乗組員が懸命に努力し、しかも自らが津波に巻き込まれながら、座礁したロシア船の船員を救助したのは硯海丸(けんかいまる)である。

地震発生後の津波の被害を避けるためには、三つのポイントがある。まず、
「津波を知る」ことで、①揺れの小さな地震でも長い時間でゆっくりした揺れ
の場合に津波が来襲することがある。②強い揺れの場合には、何と3分から5分の間に第一波が来襲する。③チリ地震の時には、日本では揺れなかったが、津波だけが来襲した。④第一波が最大の高さではない。⑤津波の前に潮が引くとも限らずいきなり来襲することもある。⑥津波の押し引き共に破壊力がある。第二のポイントは、津波に対して弱いところを知ることで、①岬の先端や湾奥や浅瀬では津波の高さが高まる。②なだらかな海浜や砂州では津波が陸上深くまで侵入する。名取川の海岸を襲う津波の映像を自衛隊の飛行機も撮影したが、白波を立てて、海岸に押し寄せる光景を名取川河口のカメラで撮影された映像はテレビで実況中継された。③津波は、河川を遡る。④大きな津波で火災が起きる。陸上に上がった漁船や船や、衝突した船の燃料油に引火して延焼する。⑤浸水で地下の空間が水没したり、マンホールや下水があふれる。千葉県の浦安などで液状化現象が見られた。茨城県の大洗の埋め立て地でも同様だ。第三のポイントは対策を立てることだ。①津波予報と同時に津波が来襲することもある。地震直後に津波が襲来すると、遠くへの避難はむしろ危険。財産の持ち出しはあきらめることだ。②日頃から、避難場所、経路を確認しておくことが重要である。

 水産庁のガイドラインでは、命を第一に考えて、津波襲来時の港内に停泊中の漁船の沖出しを禁止しているが、実際の対応とは大きな乖離がある。多くの漁民が、日常生活の糧であり、財産である船を守る為に,命がけで沖出ししているのが実際である。すぐに高台に避難せよと求められても、休業期間の保証もなく、損傷した漁船の保証も百%ではない保険制度であるから、自らの命と漁船とを天秤にかけて,正常化の偏見と呼ばれる、「自分は大丈夫だ」という心理特性によって沖出しするが、津波の特性に対する理解不足から危険を伴う場合が非常に多い。その一方で北海道の落石漁協では、津波に強い漁業地域作りの成果として、漁船の沖出しのルール作りをしていた。
沖合への避難を指示して、漁協組合の指導船が午後三時には出港し一五分後には、水深五〇メートルの安全海域に着いて翌日の午後五時頃まで待機した。地震発生後二〇ないし三〇分後には、漁船五五隻と工事船三隻を安全海域に沖出しさせた。上架中の七隻が落下して船底を損傷した被害はあったものの、根室市内の漁港で甚大な被害が発生したのに比べると、落石漁協は迅速に沖出しの対策を実行して、相馬と同じく成功例となった。   (つづく)

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