構造改革、民営化、市場原理主義の虚妄から、マインドコントロールを解くための参考図書館

« Kuroshio 83 | トップページ | An Appeal to FCCJ Members »

Free Drawings and Deep Snow

地震があって、道路が通行止めになっているので、今夜の遠出はやめた。寒い冬の夜だ。山形の月山の麓の友人のことを考えている。初雪はどんな具合だろうか、と。

  山形県西川町の岩根沢小学校の校庭に昭和四七年一〇月八日、詩人丸山薫の詩碑が建立され除幕式が行なわれた。七三歳の詩人は夫人と並び記念写真をとり

  「人目をよそに 春は いのちの花を飾り 秋には深紅の炎と燃える
  あれら 山ふかく 寂寞に生きる木々の姿が いまは私になった」

と書いた。
 前西川町長近松捷一氏は元郵便局長だが、特産品を首都圏で販売促進するために西川町のふるさと大使を委嘱してこられた。年二回を原則にして夏冬毎に西川町を訪ねるうちに、丸山薫が戦禍を遁れて西川町の岩根沢に疎開して寄寓すること三年、山村の小学校の先生として務め、美しい詩を沢山書いたことを発見した。教科書に載るほどに知られて、私はいくつかの詩を暗唱するほどだったから、月山の麓の集落の、その詩が創られた現場の記念館を訪ねた思い出には今でも心が躍る。
「白い自由画」と題する詩がある。

  「春」という題で 私は子供達に自由画を描かせる
  子供達はてんでに絵具を溶くが 塗る色がなくて 途方に暮れる
  ただ 真っ白な山の幾重りと ただ 真っ白な野の起伏と うっすらとした墨色の陰翳の所々に
  突き刺したような 疎林の枝先だけだ
  私はその一枚の空を 淡いコバルト色に彩ってやる
  そして 誤って まだ濡れている枝間に ぽとり! と黄色を滲ませる
  私はすぐに後悔するが 子供達は却って喜ぶのだ
  「ああまんさくの花が咲いた」と子供達は喜ぶのだ

 この詩にあるまんさくの花がどんな色の花か確かめに春の日比谷公園の花壇を私は巡ったことがある。
 月山の山麓は日本有数の豪雪地帯である。桜の木であれば、高い梢の枝まで、雪に埋もれてしまう。雪を踏みしめて歩いて高いところの枝を切り落とせるようになる。販売促進の対象の一つとなった桜は、切り落として揃えた桜の枝を地元の温泉の熱で一月元旦に咲かせるように、満開の時期を調節した啓翁桜である。啓翁桜は昭和五年に、久留米の良永啓太郎という人が誕生させた新品種であるが、深雪の中で収穫されて山形が大産地となっている。


岩根沢は西川町の中心部の間沢から北の山間部に分け入る。月山を中心に羽黒山と湯殿山からなる出羽三山への主要な登山口である。岩根沢には国の重要文化財として指定されている三山神社の本殿が残されている。明治の神仏分離令で寺号を廃して神社となったが、元は天台宗日月寺の本堂である。廃仏毀釈が凄まじく、寺社文物が徹底的に破却された三山神社の総元締めである羽黒山神社と比べて伽藍が良好に残された。参道があり宿坊が並ぶ。月山に詣でる往事の賑わいが偲ばれる。
●月山は豪雪地帯にあるから、春先から夏にかけても雪が残り、雪渓となって山体に白い斑ができる。山開きが五月にあって、スキー客が山スキーに駆けつける。関東にはお伊勢参りをした後に必ず出羽三山に参ることを習慣にした地域もあったくらいだから、岩根沢の神社の伽藍の壮大さは、いつか先達を頼んで月山登頂を果たし、頂上にある月読命をご祭神とする月山神社に詣でることを夢見た人が多かったことの証である。月読命は、天照大御神、建速須佐之男命と並んで三貴子と呼ばれるが、ただ月読命だけは記紀にもわずかな記述しかなく、しかも全国にも月読命を主祭神とする神社は八五社しかない。そのうえ、高知の一社を除くと、月山神社はすべて東北にあるから、山岳信仰が原形である。


月山は生死をつかさどることが実感できる月を祭神とする山であるから、母なる海にも繋がっていることは間違いない。詩人丸山薫が岩根沢で書いた全詩集が『北を夢む』と題する一冊の本になっているが、その本の帯に杉山平一という署名の入った一文がある。

  丸山薫は若くして愛した大海原の沈黙と静寂と永遠を、再び雪深い山に見出し、それが素朴な
  山の人々の人情に包まれている世界に触れて、一段と高く深い生命の詩の数々を生み出した。

 詩人は海を知らない山の子供たちのために帆船の絵を描いたりしているが、雪に埋もれた月山の広がりと、青い大海原と生命の深さを関連づける。月山は「アスピーテ式火山」といい、楯(たて)を伏せたような山容から「楯状火山」と呼ばれる火山の典型で、流れやすい溶岩が薄く広がった山の形をしている。岩石の主成分は玄武岩である。山形から鶴岡へ抜ける高速道路の山形道は、寒河江川を堰き止めた寒河江ダムを通り過ぎて月山中腹の志津温泉に抜ける大井沢への出口でいったん高速道路が途切れてしまう。地盤の動きを止める工事が大規模に行なわれているが、高速道路を建設することが困難なほどの地滑り地帯だからである。月山の南西側の山麓は、地滑りが頻繁に起きる可能性のある地盤軟弱な地域で、硬い火山岩の上に深さ約一〇〇メートルの軟らかい火山噴出物が堆積しており、月山の万年雪から出る大量の雪解け水が地表近くを流れ地滑りを誘発しやすくなっている。特に、湯殿山に近い大網地区などは地滑り専門家の間でも有名である。近くにある即身仏で知られるお寺が、地滑りの影響で移転したことすらある。

« Kuroshio 83 | トップページ | An Appeal to FCCJ Members »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/209267/56270530

この記事へのトラックバック一覧です: Free Drawings and Deep Snow:

« Kuroshio 83 | トップページ | An Appeal to FCCJ Members »

2016年10月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          

興味深いリンク