「月刊日本」6月号 ,
地震の年の6月号である。復興とは何かを考えさせる記事がネットにあったので、転載する。
熊野の地で日本を思う
夜寒で避難所に炊き出しの応援に行く体力に欠けるが、何か出来ないかと、熊野の本宮大社に詣でて日本復活祈願をした。
四月一五日の早朝から本殿祭が始まった。
宮司は「大震災があり、祭りの時間を知らせる花火やアドバルーンをあげることを自粛したが、その他の行事は淡々と進めることが大事である。人と自然との共生、東北で亡くなられた多くの方々の鎮魂を祈ります。
明治二十二年の大水害で本宮大社は壊滅的な打撃を受けたが、僅かに二年の間に今の山間の丘陵地に移築することに成功している。しかも重機がない時代に大がかりな復興事業を成功させている。来年は大水害から一二〇年の節目の年として、社殿修復等の工事を進める」と決意を述べられた。
先人の迅速な修復に習うためにも、決断して迅速な行動に移して行くことが大事だとの趣旨の挨拶があ...ったが、聴衆の中からは、現下の日本の政治指導者の欠如を想像したせいか、嘆きの声か溜息か、はたまた失笑とおぼしきさざめきが聞こえた。
午後には、神輿が本宮大社の旧地である大斊原まで練り歩いた。満開の桜の中で、斊庭神事が大斊原で挙行され、熊野修験が大護摩の火を焚いた。復興祈願をするにふさわしい大日本の聖地たる風格であった。
本宮大社の旧地は熊野川の中州にある。かつては、河口の新宮からの船の往来が今より頻繁で、古代の船着き場があったようだ。
明治二十二年に起こった大水害は人災であり、明治政府が神社の合祀を画策して紀伊の神社林の巨木を伐採したから、その結果山が荒れて大水害が起きたに違いない。
南方熊楠の旧宅は田辺に残っているが、隣地に顕彰館が建てられて、約二万五千点に及ぶ資料を整理しているので、帰りに立ち寄った。
昭和天皇の御製「雨にけふる神島を見て紀伊の国の生みし南方熊楠を思ふ」の歌碑が敷地に屹立している。昭和四年六月一日、御召艦長門に六隻の艦船を従えて南紀を行幸した昭和天皇は、熊楠の推奨する神島に上陸して粘菌を観察され、後刻艦上で神島の植物に関する御進講を受けている。昭和三十七年南紀に再度行幸の天皇陛下が、熊楠の思い出を話され帰京後発表された歌である。
「神島には 一枝も心して吹け沖つ風 わが天皇のめてましし森そ」という熊楠の赤誠の歌碑が、昭和五年に建てられて今に残っている。神島とは田辺湾にある面積三ヘクタールの島である。
神島と書いて、訓は「かしま」であり、神は建御雷命であるというから、常陸の鹿嶋神宮との関係も容易に想像される。鹿嶋が神島であることを田辺の記念館を訪れるまで知らなかった不明を恥じた。神島は古くから不伐の森であったが、明治四十二年に神島の社が近くの神社に合祀され、森の伐採が計画された。南方熊楠はこれに反対した。
明治政府は、明治四年の太政官布告で全国の神社の格付けをして、明治九年には神社合祀の法律基盤を固めた。紀州では特に急進的な合祀が行われたとされるが、きっと巨木の利権があったからに違いない。
南方熊楠が、神社の合祀合併とそれに伴う神社林の伐採を憂えて、長文の論攷を初めて発表したのは、明治四十二年九月である。神社の森がかけがえのない生命の貯蔵庫であることを知り、日本という国の文明の根本が、そうした小島の森や鎮守の森に宿っていることを、大英帝国の博物館での勉学によって知ったと思われる。
大正七年に至ってようやく、「神社合併は国家を破壊するもの也。神社合併の精神は悪からざるもその結果社会主義的思想を醸成するの虞あるを持って今後神社合併は絶対に行うべからず」との意見が通った。熊楠の反対で、神島の森、熊野古道の野中の継桜王子社の森、那智の滝の原生林などが残ったが、大方の神社林は切り倒されてしまった。明治の神社合祀は、小泉構造改革の破壊とも似た神殺しであった。近代の宗教秩序を導入し、合併によって効率化する発想であった。
神社合祀の場合には、巨木が利権となり、木を伐ってそれを売ることで、一部の勢力が利益を上げるという構造であった。列島に繁茂していた巨木が外国勢力の手に渡って加工されていったとすれば、現代の構造改革協議という外国金融勢力の支持によってなされた虚妄に限りなく近い。事実、北海道の樫林は外国で酒樽になった。
神島は天皇が愛でて、南方熊楠とその継承者が厳重に守って保護したにもかかわらず、マツやタブノキの巨木が弱って枯れ、少しずつ荒廃しているという。南紀でも魚つき林は殆ど破壊されたし、神島のある田辺湾や海岸線は、コンクリートによって津波の力を消す浦々を埋め立ててしまった。
さて、東京に帰り、原発の写真集をみてみると、全部が海岸にあるが、テトラポットを積み上げた形で自然の力をなめきっているように見えた。心して沖津風が吹いたせいか、熊野灘の原発建設の話は立ち消え・中止になっている。
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