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Kuroshio 90

 

「いのちを守る森の防潮堤」を!

昨年に続き三月一一日午後二時から、「東日本大震災で被災した方々の冥福と天地神々の鎮魂、被災地復活と日本再生の祈りを捧げる祈りの日」が、世話人代表を元参議院自民党議員会長の村上正邦先生、実行委員長を医療法人博翔会会長、その他四人の世話人が主宰して明治記念館で執り行なわれた。実行委員長の開会宣言があり、開会挨拶があり、二時四六分には、「六メートルの津波が来ます。早く高台に避難してください……」と防災無線で呼びかける南三陸町の故遠藤未希さんの声が、満員となった明治記念館の富士の間に響き渡った。黙祷をした後に、参加者全員が白菊の花を献花した。尺八の演奏の後に佐藤栄佐久前福島県知事の挨拶があり、福島の学園の東京在住卒業生で編成する「ふるさとを思う女声合唱」が披露された。

休憩をはさんだ第二部では、森の防潮堤をテーマに、植物生態学者の宮脇昭先生と、仙台の輪王寺住職の日置道隆師、元俳優の菅原文太氏が宮脇教授の応援演説をするかのように登壇した。会場受付では、宮脇昭著『瓦礫を活かす森の防波堤』(二〇一三年、学研)が販売され、被災地の沿岸に土地本来の木を九千万本植え「いのちを守る森の防潮堤」を築く構想を提案した。しかも、瓦礫を焼却するのではなく、復興のための資源として土と混ぜ、ゆっくり作用する肥料のように「ほっこり」と土盛りをし、まっすぐ直下に根が入り込むように、深く根を張るタブノキやシラカシの高木などを複数植えていく方式を説明した。被災地の跡を調べると、アカマツやクロマツなどは、防潮林として機能を果たすことなく根こそぎ倒れたが、タブノキやシラカシ、ヤブツバキなどの高木と、その土地本来のマサキやネズミモチなどの中低木は大津波に耐えて生き残ったことがわかった。日本人の頭には、海岸の松、つまり白砂青松がこびりついているが、これは江戸時代に行なわれた防災対策として定着した海岸の景色であり日本古来のものではない。今回の東北大震災で図らずも、江戸時代以来の防潮・防災林としてのマツの限界が明らかになり、単植林は脆弱であり、混生してようやく防潮林としての機能発揮が期待できることが証明された。マツにこだわって他の木を切ってしまっては、防潮林として脆(もろ)いのである。

宮脇昭氏は世界四大文明と呼ばれる、メソポタミア、エジプト、インダス、黄河文明のいずれもが畑作と牧畜を生業とする家畜の民が作った文明だが、現在の地中海、ヨーロッパ、アメリカ、そして漢民族の文明もその延長線上にあり、いずれも土地本来の森を破壊して都市文明を繁栄させたので、結果的にローマ帝国のように滅亡に至るであろうと、植生の調査から結論づけている。日本では、家畜を飼育してその肉を食べる習慣もなく、森を皆殺しにするどころか、牧畜を何とか導入しないで森を草原にしない努力が重ねられてきた。水田耕作を主な食料生産としても、水田は国土の一割にも満たないで、七割はいまだ森と林に包まれたままで、里山に鎮守の森を作って、日本人の生活様式と文化をはぐくむ母胎のような森を温存してきた。むやみに人の手が入ると祟りがあるとして、古墳や祠、神社や寺を建てて、森を守ってきたのである。関東大震災の時に、清澄庭園では、避難してきた二万人を荒れ狂う大火から救っている。明治神宮の人工の森は東京大空襲でも全焼を免れているし、山形の酒田市の大火や阪神淡路大震災でも土地本来の森が「緑の砦」(とりで)となって多くの命を救った。ちなみに明治神宮の森は、日本全国から寄せられた約一三万本の献木により造成され、わずか百年で自然林に近い樹種の構成になっている。昨年、宮脇教授は天皇皇后両陛下に御進講を行ない、そのとき両陛下から「平成の森を作ってください」という御言葉を賜ったという。

登壇した菅原文太氏は、村井宮城県知事が主導して現在、沿岸の一六〇キロ余に渡ってコンクリートの防潮堤を作る工事を進めているが、こんな無駄は即刻差し止めるべきで、むしろ「瓦礫を活かす森の防潮堤」を建設すべきだと舌鋒を鋭くした。村上正邦先生は「祈りの日」に先だちコンクリート防潮堤の建設現場と予定地を視察、愚行と断定した上で、「美しい景色と自然が一体化していることが大切で、コンクリート防潮堤の支持杭が土中に打ち込まれれば森から海に至る地下水脈が断たれ東日本の海は死に瀕するばかりか、海の景観をコンクリートの壁で隔てる防潮堤が、自然と人間のつながりを断ち切ることになる」と指摘、また、「科学的な検討が何一つ加えられておらず、環境アセスメントすら適用を除外され、大津波の被害を防ぐための本格的な議論がなく決定された」過程を問題とした。亀井静香議員は工事中止を求め早速国土交通省と交渉を開始したと報告した。村上氏は「両陛下の御心に添った亀井さんの行動は政治家の鑑で、政治家や役人が早くから両陛下の御心に添っていたら、復興がこれほど遅れることはなかったでしょう。現在の日本の弛緩は、その元凶が、使命感を失った政治家のていたらくにあったと断言せざるをえません」とも結語している。(つづく)

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