Chinese Threat
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/2834
中国の覇権主義
環太平洋地域連携と
海上アプローチで抑える
東シナ海、南シナ海における中国の近年の強硬姿勢と北朝鮮の核の脅威により、地域内の緊張と紛争の可能性が高まる。これを安定させるためのポイントは、地域の同盟国や友好国との連携、中国の覇権的行動に対する海からのアプローチだ。
マラッカ・ジレンマ埋める軍備増強
中国経済は海洋貿易に大きく依存している。中国の港湾はすべて第一列島線の内側にあり、海上封鎖に対して極めて脆い。この脆弱性を痛感する中国はかねて、「マラッカ・ジレンマ」と呼んできた。中国が輸入するエネルギーは、通行が厳しく制限され、自国から遠く離れたマラッカ海峡を通るからだ。
こと製造業に関しては、さらに深刻なジレンマを抱える。中国経済の約27%は輸出に基づいており、輸出は遠く離れた市場への自由なアクセスに依存している。外国市場へのアクセスはすべて、第一列島線の隙間を通る通商航路を利用する必要がある。外国海軍が支配する隙間だ。
そう考えると、中国が自国海軍に投資しているのも驚くに当たらない。このような投資は歴史上、台頭する新興大国では当たり前だったし、海洋貿易に大きく依存する国にとっては戦略上不可欠だとも言える。
軍備増強は珍しいことではないが、中国の目的は地域、特に日本の懸念材料となる。米議会調査局(CRS)の海洋問題専門家、ロナルド・オルーク氏によれば、中国の海軍近代化にはいくつかの長期目標がある。
・地域内で中国の軍事的リーダーシップを発揮し、域内における米国の軍事的影響力を排除し、最終的に地域からの米軍撤退を促す。
・石油、ガス、鉱物資源の探査権にも関係する海洋領有権紛争で中国の主張を守る。
・石油などの輸入で中国が次第に依存度を高めている海上交通路を守る。
こうした目標は、中国が世界市場へのアクセスを確保するために必要な範囲を超えており、目標が達成されれば、中国が東アジアの安全保障環境を支配することになる。中国はこの目標を達成するために、米国海軍を地域外にとどめておくことを目的とした「遠海」作戦の展開と接近阻止・領域拒否(A2AD)作戦の支援を行えるよう海軍を増強する。
中国は現在、攻撃型原子力潜水艦を5隻、在来型の攻撃型潜水艦を50隻以上展開している。幸い、通常型潜水艦の半分以上は30年以上経った旧式の潜水艦だ。また、中国は水上艦部隊も増強しており、駆逐艦を26隻、フリゲート艦を53隻、ミサイル艇を93隻保有している。艦齢も能力も様々だが、比較的新しい艦船は高い戦闘力を持つ。
1999年から2006年にかけて、中国はロシア製ソヴレメンヌイ級駆逐艦4隻の引き渡しを受けた。94年から07年にかけては新型の国産駆逐艦を5隻建造。91年から08年にかけては種類の異なる4種類の新型フリゲート艦を20隻建造している。
矢継ぎ早に打ち出される新たな装備は、中国が艦船の能力を漸進的に高める意図を物語っている。また、急速な艦船建造が可能なのは、中国が軍用建設に十分適した造船所を有するからだ。
今年には、中国唯一の空母「遼寧」が母港に到着した。遼寧は近年の中国艦船が受けたことのない大きな注目を集めたが、まだ実戦に向けた運用はされておらず、特段能力の高いプラットフォームでもない。それでも遼寧の就役は、将来的に効果的な空母部隊を築こうとする中国の願望を表している。
しかし、比較的急激な軍備増強にもかかわらず、中国はまだ、中国の海上輸出が絶対に外国軍に封鎖されないために必要な作戦行動を実施する海軍力を持っていない。達成までには時間がかかり、現在はほとんど手付かずの輸送艦を多数建造する必要もある。
また、中国は南シナ海および東シナ海で活動する様々な海洋機関の指揮系統の統一を図る。今年3月、政府は様々な法執行機関や漁業監督機関、沿岸警備隊、密輸取締警察を国家海洋局に統合した。中国は沿岸水域の支配力を高める一方で、国家海洋局の船と外国船との偶発的な衝突が生じる可能性を減らせるはずだ。
こうして見ると、南シナ海、東シナ海における中国の行動は、一段と攻撃的な行動を取ろうとする願望と、そうした行動が手に負えなくなる事態を確実に防ごうとする願望の両方が見える。
一方の米国側は、アジアへのリバランスを始めている。11年11月、バラク・オバマ大統領はアジア太平洋地域を最優先すると宣言した。米国は環太平洋経済連携協定(TPP)など幾多の分野で行動を起こしているが、本稿は軍事的側面に焦点を絞りたい。
中国艦隊を上回る日米の能力
オバマ大統領の宣言以降、米太平洋軍司令部はアジアへのリバランスの軍事的な部分を実行に移し始めた。米海軍は向こう数年間で保有する船舶を移動させ、6割を太平洋地域に配備する。それに加え、太平洋艦隊はすでに、米海軍のどの部隊にも先駆けて最新鋭の装備を取り入れている。実際、新しい沿海域戦闘艦4隻の1隻目が今月シンガポールに配備されたところで、米国は地域の水上艦の能力を向上させている。
米海軍は世界各地に分散しているものの、原子力空母11隻、 ヘリコプター空母・軽空母10隻、攻撃型原子力潜水艦53隻、巡洋艦22隻、駆逐艦61隻、フリゲート艦18隻を保有しており、中国の空母1隻、主力水上戦闘艦79隻および潜水艦戦力よりも数が多いだけでなく近代的でもある。
しかもこれは、海上自衛隊が保有する潜水艦16隻、ヘリコプター空母2隻、駆逐艦41隻、フリゲート艦6隻から成る高性能な艦隊を加える前の話だ。日本は近く、1万9千トン級のヘリコプター空母2隻のほか、新しい潜水艦や新型哨戒機「P1」を導入予定で、米軍と連携して水陸両用能力の増強に取り組んでいる。
さらに、安倍晋三政権は今年、日本の航空機と艦船の調達予算を増額した。米国と日本を足した艦隊は、中国の艦隊より数が多く、より近代的で、能力も高いわけだ。
米海兵隊の一部部隊を沖縄から移転させる取り組みは今も続いている。一部の海兵隊員は沖縄を去るが、太平洋地域にはとどまる。海兵隊は今後も空陸任務部隊を沖縄とグアム、オーストラリア、ハワイに1個ずつ置く。これらの部隊をバックアップするのが、海兵隊最大の戦闘部隊でカリフォルニアに本部を置く第1海兵遠征軍だ。
海軍と海兵隊のチームは継続的に日本国内および北マリアナ諸島の訓練場で自衛隊と定期訓練を実施している。日米両国が地域の同盟国や友好国との相互運用性を高められるよう、その他の国々もこれらの訓練場で演習を行う。
米空軍は太平洋地域に大規模な部隊を維持し、最新鋭のステルス戦闘機、F22ラプターとB2スピリットをグアムと沖縄に交互に展開し、空軍も地域の同盟国や友好国と定期的に共同演習を行う。
こうした軍事演習は、米国の戦略にとって不可欠だ。米国は2年に1度、世界最大の海軍合同演習である環太平洋合同演習(RIMPAC)を主催する。12年のRIMPACには、世界22カ国の艦船42隻、潜水艦6隻、200機以上の航空機が参加した。この演習は環太平洋地域の国々をハワイに集め、災害救助と人道作戦に軸を置いて訓練を行う。中国は14年のRIMPACに船を1隻送り込むと発表した。米国はこれに加え、日本、韓国、オーストラリア、フィリピン、タイ、シンガポール、インドとの2カ国間および多国間軍事演習に定期的に参加している。
安全保障連合形成狙う安倍政権
米海軍の戦略家、アルフレッド・セイヤー・マハンは、シーパワー(海軍力)において最も重要な要素は国が置かれた地理的な位置だと指摘し、「港の状況を変えることは人間の力を超えている」と書いた。第一列島線上に位置する日本は対馬海峡から琉球諸島、さらには台湾に近い水域にかけて中国の外洋へのアクセスを遮断している。日本政府もこの事実を認識している。
10年12月、日本は防衛大綱で琉球諸島の防衛に重点を置いた新たな政策を示した。「動的防衛」というこの概念は、日本の領土防衛計画における大きな変化を示している(詳細は、日本国際問題研究所の小谷哲男氏の論文「China's Fortress Fleet-in-Being and its Implications for Japan's Security」を参照)。自衛隊(陸海空)は新たなアプローチを行うために定期訓練を始めている。
安倍首相は動的防衛の概念を補強するように、日本、米国、オーストラリア、インドは、すべての国に地域内の海路・空路への制限なきアクセスを保障するために「民主的安全保障ダイヤモンド」という安全保障連合を形成できると述べた。また安倍首相は、主要加盟国を自ら訪問したり閣僚を派遣したりして、ASEAN諸国との関係強化にも乗り出している。
日本の動的防衛という概念は、筆者が提唱した「オフショア・コントロール」という戦略とも結びつく。この戦略は通商破壊を通じて中国を抑止し、必要とあらば倒すことに焦点を合わせる。米国と日本は第一列島線を防衛することで中国の海上貿易を妨害する。そうすると中国はほぼ解決不能な戦略問題に直面する。中国は海上輸送よりずっと高いコストを払おうとも、陸路を使った輸送では十分な貿易を賄えないからだ。
一方で、船舶輸送を守るためには、中国は制海能力を備えた海軍を築かなければならない。それには数兆ドルに上る巨額の資金と数十年に及ぶ歳月がかかる。たとえ実現できても、中国が航路を利用できる保証はない。中国の侵入する航路は制限されており、比較的容易に遮断できるからだ。
この戦略を使えば、同盟側は中国を上回る兵力を確保でき、陸海双方からの支援と地理的な優位性を得られる。さらに、この戦略は防衛目的であるため、同盟側が中国本土を攻撃することはない。平時の演習はすべて防衛作戦とし、中国にも内容を公開する。そうすれば中国側にも、この戦略は中国が攻撃を仕掛けた場合に限って採用されることが分かる。中国がこの戦略は攻撃的だと訴えても、大半の国は中国を信じない。
中国との紛争が中国と日米同盟のみならず、世界経済にとっても破壊的な影響をもたらすことは明らかだ。このため日本と米国は地域の同盟国と協力し、中国を刺激しないようにしながら、中国は日本に対する武力行使で政治的な目的を達成することはできないということを明確にさせる戦略を築かなければならない
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