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Kuroshio 117

メタンハイドレートの可能性

二○一三年一月二七日、掘削調査船「ちきゅう」が、世界初のメタンハイドレート海洋産出試験を行うために静岡県の清水港を出港した。試験の実施地点は、渥美半島から志摩半島の沖合の北緯33度56分、東経137度19分の地点で、水深が857~1405メートルの地点であった。東部南海トラフと呼ばれる海域の一部である。一九九六年から二○○四年までの調査で、その地点にメタンハイドレートが濃縮している地層が16あることが判明していたので、海洋産出試験実施の候補地となった。準備作業が5年がかりで進められ、平成21年度に基本計画の検討を開始して、二年後に試験実施地点を決定した。掘削機器やモニタリング装置の製造を行い、平成24年度の終わりの一月から三月にかけて坑内に機器を下ろして実際に地層を減圧してガスを出す作業が実施された。石油や天然ガスの場合には、地下で液体や気体の流体として存
在するから、坑井を掘削して自噴する分をエネルギー資源として使っている。ところが、メタンハイドレートの場合は、地下に固体として存在するために、約1トンのハイドレートから取り出せるエネルギーはドラム缶一本分で、経済的に成り立つ生産方法を見つけ出す必要があり、しかも環境・漁業などへの影響を最小限にする必要がある。海底面下で固体のまま採掘するのは費用がかかりすぎるとの指摘があり、水とメタンガスに分離して石油や天然ガス同様に生産できる分解採取の方法がまず追求された。二〇〇二年と二〇〇七~八年にかけてカナダ極地の永久凍土層の下のメタンハイドレートを、熱刺激法と減圧法の両方の実験をして、減圧法で継続的なハイドレートの分解に成功していたので、減圧法が日本近海の海底面下で同様にうまくいくかどうか確認する必要があるというのが、海洋産出試験を実施する理由のひとつである。メタンハイド
レートの分解は、吸熱反応であり、エネルギーを与え続けなければ分解が進まないが、減圧法は人口的に熱エネルギーを供給することなく、ハイドレートの温度と地層の温度の差の熱でハイドレートを分解すると言うものであるから、そうした熱が効果的に集められるのか、つまり、海面下の地層の中で、熱と流体との動きが制御できるのかとの課題があった。従来は、減圧法の使用は困難であると考えられ、カナダでの陸上実験においては、温水循環による熱刺激法が試みられたが生産量は僅かに留まり、一方で同時に行われた小規模な減圧実験で、地層に浸透率があることがわかり、減圧法への期待が高まった。カナダにおける二回の陸上産出試験でも一定の成果があった為に、減圧法が採用されたのである。三月十二日に減圧を開始して、最初のフレアに着火して、以降十八日まで、ガスと水とを生産し続けた。三月十八日に至り、ポンプの回転の負荷が高まり、船上でポンプから砂が出てさばききれなくなり、また当日の夜から大荒れの天気予報であったので、ガスが出てこないように坑内のガスと砂を浚って圧力を回復させる作業を行って生産実験を終了させた。減圧法で毎日2万立方メートル、六日間連続で、メタンガスが生産できることは証明できた。

さて、メタンハイドレートとは、メタンと水分子からなる化合物であり、見た目は氷状の物質であり、常温常圧ではメタンと水とに分解する。メタンガスに火をつけると燃えるので、燃える氷と呼ばれる。燃えた後には水が残る。メタンハイドレート一立方メートルには約160~170倍の体積のメタンガスが含まれていて、メタンハイドレートは低温高圧で安定的な物質で、天然のメタンハイドレートが存在できるのは、永久凍土地域の地下や、水深500メートルより深い海底である。一九三○年代にシベリアの高圧のパイプラインがメタンハイドレートで詰まる事故の原因として注目されていた。メタンは、地下の有機物から生成され、熱熟成起源と微生物起源に大別できるが、熱熟成起源のメタンとは、地下深部の熱によって生成するのは、多くの天然ガス田と同様であり、カナダ陸上試験の時のメタンも、日本海の佐渡沖のメタンも地下深部
の熱起源である。今回の頭部南海トラフ海域のメタンハイドレートは、メタン生成古細菌によって生成されたもので、水溶性のガス田に多いメタンガスである。一九六五年にメタンハイドレートの生成が理論的に証明され、一九七九年に中米の海溝でサンプルが回収された。日本は、一九八九年に奥尻海嶺で、翌年四国沖の南海トラフで回収に成功している。

商業化の為の技術を二〇一八年には確立して、試験の際の五倍の数字になるが、毎日十万立方メートルの生産があれば、経済的な採算も達成できるという。現在のところ、掘削船の費用だけでも一日当たり五千万の経費がかかり、その費用は、倍増するとの見方もある。メタンには、炭酸ガスの三十倍の温室効果があるとして、メタンハイドレートの採掘に反対する動きもある。原子力から再生エネルギーへの転換までのつなぎのエネルギー資源としても、地球温暖化の観点から反対する環境活動家の動きもある。  (つづく)

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