Kuroshio 127
真珠と硝石と富の源泉
フランシスコ・ザビエルが、真珠を求めて日本に来航したとの説について縷々書いたら、早速友人から貴重な情報提供があった。ザビエルの後継者らが大量のチリ硝石を持ち込み、戦国大名に火薬の原料として売りつけたのではないかという情報である。徳富蘇峰の「近世日本国民史」に色々書いてあり、硝石一樽と女三人が相場で取り引きされたことなど、とても正史には出てこない話があるとの情報だ。硫黄が火薬の重要な原料のひとつで、宋の時代、日本では鎌倉幕府の全盛の頃に輸出品の主品目であったことや、薩摩の硫黄島や、今は沖縄県に所属するが元々は奄美の一部で、徳之島の西方沖の活火山の島である硫黄鳥島および、西表島沖の海底火山については書いた。だが、南米チリから硝石をイエズス会が持ち込んだ話などはそもそも知らなかったし、また、アフリカ黒人を奴隷として新大陸に送り出した海岸を黄金海岸と言うように、日本の女性を海外に送り出した海岸を、白銀海岸と呼んでいたなどとの話も、浅学にして知らないので、友人からの情報の真贋について判断することができないでいる。硝石はマカオで樽詰めにされたために、硝石がマカオで生産されるものと戦国大名は誤認していたのではないかとの説も、カジノの本拠あるいは胴元がマカオにあると誤認するような現代の誤謬に通じる話ではある。確かに日本では爆薬の原料としての鉱物としての硝酸カリウムは産出しなかったために、火縄銃伝来と共に硝石が輸入された後には、煙硝、焔硝、塩硝、硝石などと名付けられ、各藩で秘中の秘としての製造組織が編成され、火薬奉行という職まで創って、色々な製法で国内生産に努めたのだった。
床下表面の黒土を大量に集め、水を加え、硝酸カルシウムを水溶液として抽出し、大鍋で加熱し、これを木灰を入れた桶に注ぎ、高濃度の硝酸カリ水溶液にして、濾過し、煮詰めて乾燥する方法がある。硝化バクテリアの存在は分からなかったが、経験的に生産性の良い土があって、その土に原料となる草や土、糞尿等と混ぜ合わせれば、硝石の純度が上がることが分かっていた。腐敗物や尿から出たアンモニアは硝化バクテリアの働きによって亜硝酸に変化し、それが酸化されて硝酸となり、土中のカルシウ
ムと結合させ、灰汁(炭酸カルシウム)が作用して、硝酸カリウム(硝石)となる工程である。興味深いことに、富山の五箇山や岐阜の白川郷の合掌造りの大家族制の家屋の床下の「鼠土」が、硝化バクテリアを大量に含んでおり、また立山連峰の鉱山から硫黄も産出したから、加賀百万石の富の源泉が火薬の製造方法にあったのである。それにつけても、合掌造りの家が、大家族を住まわせアンモニアと硝酸バクテリアの取得を容易にするための構造であったとの研究があるのは興味深い。尿を南島では「しばい」と言うし、日本語では「いばり」とも言うが、威張り腐ったというのもアンモニアの話に繋がり、爆薬の話に成ってくるとすれば、権力の源泉について考えさせられる臭い話になる。サトウキビを搾って、大きな甕に入れておくと酢酸菌が作用して濃度の高い酢になり、その中に、酢玉と呼ばれるオリのような物質が発生することが知られている。乾燥させると、爆発的に燃える物質である。天然のセルロイドで、その中に硝酸が含まれている。サトウキビが、黒潮の洗うフィリピン、台湾、琉球から、日本各地で、単に甘味料ではなく火薬の原料として栽培された可能性についても言及しておきたい。最近、絞り滓のバガスから航空機の胴体の素材になるような炭素繊維を製造しようとする動きがあるのは慶賀すべきである。真珠を採取するために腐らせた後の土が、爆薬を生産するために好適な腐敗土だったのではなかったのかと想像すると、もう妄想になるので書くことを控えるが、魑魅を「すだま」と和語で訓むことを記録しておきたい。
世界戦略情報「みち」に執筆されたことのある慧眼の読者からはエルミタージュの秘宝について繰りのような教えを頂いた。「美の対象でしかなかった真珠が、こんなにも色んなところに関わっているのかと驚いており、真珠と日本へのキリスト教の上陸地が関わっていたことは興味津々、今までに見た真珠の中で、一番「凄い!」のは、エルミタージュの宝石庫の中にあった小箱のふたを飾る、エカテリーナ女帝の横顔の形をした真珠で、ヨットの形をした真珠もあり、女帝の横顔の真珠には、大きさもさることながら、自然の造形の不思議とそれがみつかることの背後にある富と力の底知れなさを感じたものでした。
真珠が真円として日常化したのは御木本の養殖真珠からで、パールの語源自体が大腿か洋梨の形をした二枚貝のラテン語からである。ロシア河川からの淡水真珠は、尚更貴重な生産物であるから、ロマノフの財宝の壮大さが窺えよう。ギリシア語で、真珠をマルグリトと言い、テキーラを混ぜたマルガリータはもとより、マーガレット、メグなどの女性や花の名の元となった。三種神器の勾玉(まがたま)が貴石を示す玉を用い、海からの起源である勾珠(・)ではないことを明確にするのは、陸封の勢力に対して格別の意味があると思う。(つづく)
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