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Kuroshio 136

山形健介著「たぶのき」の蘊蓄

 村上正邦先生などの呼びかけで開催された「祈りの日」の式典で、植物学者の宮脇昭先生の講演を聞き、防潮林として白砂青松よりもタブノキの方が強いことが分かり、タブノキの魅力に心を奪われた。三田の慶應大学の構内から日比谷公園、そして、皇居の東御苑や大楠公銅像の斜め後ろや新築の飯野ビルの生垣、浜離宮庭園、神田橋の近くの遊歩道や駒沢公園を巡りタブノキを探し回った。大井町の仙台坂に聳えるような巨木があり、水戸の川又町の水田脇にも巨木があること、友人から越後の村上の河口にはタブノキの林があることなどを教えて頂いたりしながら、何ヶ月間か特集記事のようにタブノキについて書き連ねた(本誌三七九号「いのちを守る森の防潮堤」、三八〇号「大日本タブノキ名鑑」、三八一号「タブノキ探訪記」、三八二号「折口信夫の古代研究とタブノキ」、三八三号「異郷に根付くタブノキと島人」、三八四号「韓国と東南アジアのタブノキ」)。黒潮文明論の題材として、最近では古代の製鉄を取り上げて、それなりの新発見もあったが、沖縄を含む南西諸島における古代製鉄について何か文献がないかと、世田谷区桜新町の区立中央図書館を訪ねた。貝塚などにも触れている平凡社の『鹿児島県の地名』を入手しようと考え、二〇〇〇円也の札がついている古書を神田の古書店で見つけたが、大冊で持ち帰るのが面倒だから翌日回しにしたら売り切れていた。ネットで探すと一万九〇〇〇円の値段がついていた。そこで、禁帯出ながら手に取って読める中央図書館に出かけたのだ。『沖縄の鍛冶屋』という題の本も見つけた。沖縄県で手広く事業をしている会社の金秀(かねひで)が鍛冶屋から発展したことなど興味深いことが書いてあるので立ち読みをしたが、南西諸島に湖沼鉄があったかどうかの肝心の議論には参考にならない。黒潮文明論に資する新刊書でもないかと蔵書の検索をしたら、法政大学出版局の「ものと人間の文化史」の一冊として、山形健介『タブノキ』が昨年三月二〇日に出版されていることが分かった。筆者がタブノキについて熱中して書いたのは、その単行本が出版される一年前であるから、新刊の『タブノキ』を早速借りだして、筆者の知るタブノキと比べ読みになった。

 名古屋の繁華街の御園座の向かいの通りに神木として扱われている「御園のタブノキ」があることは知らなかったし、新幹線の新神戸駅の裏手のロープウェイの駅の西側にタブノキがあることも初めて知った。育種した苗の植え替えが難しいとの指摘も興味深いことであった。魏志倭人伝に記述された木の名前の最初にあるのが、タブノキではないかとの解釈を採用し、さらに万葉集の大伴家持が詠んだ歌「磯の上の 都万麻を見れば 根を延へて 年深からし 神さびにけり」の「都万麻(つまま)」とは、舳倉島の島民がタブノキの大木をツママノキと呼んでいたことから、タブノキに間違いないとしている。

 楠と樟の字の解釈を巡っての議論も興味深く、樟木をたびのきと読む独特の苗字が能登の珠洲市にあるという。船材用の木が、実は現代のクスノキではなくタブノキであるとの解釈も成り立ちうるとも指摘している。渡来したポルトガル人はタブノキを「月桂樹のような、ある木」と日葡辞書に書いて、クスノキとは区別しているようである。また、日本各地にある楠を被せた地名は実はタブノキを示す地名ではないかとの議論を進めて、例えば、三浦半島の大楠山などは、クスというよりはタブノキが茂る山ではないかとの説を展開している。一章を割り当て、タブノキの用途の広さ、汎用性の高さについて日本の樹木の中で筆頭に挙げている。タブには、紅タブと白タブとの違いがあり、潮風に当たったタブが紅タブで、ケヤキよりも高級材として扱われ、桧よりも珍重されたと言い、タブノキは海水に浸かると一層硬くなり、また粘りと弾力性も併せ持っていることを紹介する。沖縄方言でタブノキのことを「斗文木(ともんぎ)」と言うが、美しい木目が現れるからである。シロアリが食べない木としても有名で、丹後の伊根(いね)の舟屋(ふなや)にもタブノキが使われており、京都の社寺建築の用材として採用され、またトラックの床板や鉄道枕木にもなった。それで奄美大島や沖縄・南西諸島では乱伐されてしまったから、どの島にももう大木が残っていないのであるとの酷な指摘も銘記されている。正倉院の渡来の木箱も材料はクスノキではなくタブノキではないかとの異論を出し、韓国にある世界遺産の八万大蔵経の版木はタブノキだと断定している。奄美大島の博物館にはタブノキの丸木舟が二隻展示され、今も鰹節を燻乾する薪にタブノキが使われ、オオミズナギドリとタブノキが共生しているとする。舞鶴湾にある天武天皇所縁の冠島についての記述は出色で、宗像大社沖津宮の沖の島に繫がることを想像させた。日本海の酒田の沖にある飛島がタブ島ではないかとの仮説もある。列島各地、九州と南の島々、北陸、若狭・山陰、東京・関東、東北・東海、近畿、瀬戸内・四国と全国を巡っており、また、台湾・韓国・支那のタブノキについても蘊蓄(うんちく)を極めている。 (つづく)

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