亀井静香衆院議員ら元自民党重鎮や安保政策を担った経験者6人が16日午後、「現在の権力のあり方に異議あり」と題する記者会見を議員会館内で開き、安倍政権が目指す安全保障政策の転換に異議を唱えた。

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安保政策の転換こそ日米関係を破壊すると警告する亀井氏(2015.7.16筆者撮影)

 会見は安全保障関連法案が衆院本会議で採決される直前の午後1時に始まった。亀井氏のほか武村正義元新党さきがけ代表、藤井裕久元財務相、山﨑拓元自民党副総裁、柳澤協二元内閣官房副長官補、小池清彦新潟県加茂市長が意見を述べた。

 亀井氏は、「日本の軍事力を米国が補完する代わりに基地を提供し、わが国が負担するのが岸内閣以来の基本的な考えだった」との認識を示し、「今の政府が言うようなことをやろうとすれば、基地問題を含め、トータルで日米は互いに友好な協力関係が損なわれる可能性がある」と指摘。

 「今はミサイルやサイバー攻撃の時代で、安倍総理の言うように安全保障環境は一変している。しかし、安保条約の改定も一切せず、この間の選挙でも国民に方向性も中身も示さず、突如として一国会で『行け行けドンドン』で進めてきたことは許し難い。言語道断の対応」と声を荒げた。

 「米国側から見れば、自国だけが世界の警察として血を流すことは無理。必ず日本に手伝ってくれと言ってくる。この法案が通れば断れなくなり、派兵しなければ日米関係に亀裂が入る」と述べ、法案廃止が最善の策であると訴えた。

 山﨑氏は、今回の安保法制の整備が憲法違反との立場から、集団的自衛権の行使を認めるには憲法改正が必要との見解を示した。その上で、「(米軍の駐留や施設提供を義務付けた)日米安保条約第6条の改正をしなければ、今回の安保法制で自衛隊の活動範囲が太平洋地域だけでなく地球の裏側まで広がることになる。大問題だ」と糾弾した。

 審議についても、日米安保条約のほか船舶検査活動法や海上輸送規制法、特定公共施設利用法などについてろくに議論がなされていないことを問題視し、「個別的な論議をすれば、それぞれ相当な時間がかかるはずだが、それを一括して通している。極めて狡猾(こうかつ)で、詐欺的なやり方だ」と厳しく批判した。

 武村氏は安倍首相の資質について、「世間知らずという言葉があるが、安倍さんは国民の常識を備えた方なのか疑問だ。歴代の首相や先輩方が憲法を素直に読んで集団的自衛権は認められないと言ってきたのに、それができるという」と首をかしげた。

 進め方についても「堂々と憲法改正の手続きをするなら1つの手法だが、閣議でごく安易に大転換を決めている。昨日の発言も『国民の理解が進んでいない』と言った直後に強行採決を指示している。国民はどうでもいいと言うことか」と疑問を投げかけた。

 藤井氏は田中内閣で秘書官だった当時を振り返り、「内閣法制局長がまとめた文書に集団的自衛権は駄目だと書いてあった。何でこうなるか」と提起した。集団的自衛権は対等の軍事同盟との認識を示し、「ある国と軍事同盟をやると必ず、仮想敵国が出てくる」と指摘。

 「同盟国の都合で(海外へ)出て行かなければならず、米国が言えば当然に世界の果てまで自衛隊を行かせなければならない」と警告した。「安倍さんは自信がないから(強行採決を)やった。(審議すれば)ぼろが出るから。悪名高き総理として歴史に残るだろう」とけん制した。

 旧防衛庁で教育訓練局長も務めた小池氏は、平和憲法があったから朝鮮戦争やベトナム戦争、湾岸戦争に派兵せずに済み、イラク戦争でも安全な所にいて血を流さずに今日まで来られたことを挙げ、「防衛力と平和憲法は矛盾しない」と断じた。

 「兵を用いることを好む者は滅びる。歴史の鉄則だ。安倍首相は自衛隊の最高指揮官だが、なぜ殺す方向に行くのか。必ず日本を不幸にするし、日本を滅ぼす原因になりかねない」と警告した。

 さらに「国連決議と国会の承認があれば、自衛隊は世界のどこへでも派遣さできることになるが、国連決議はあらゆる戦争に全部付いている。国会承認も昨日のような強行採決で簡単に取れる」と指摘。「後方支援はいいと言うが、後方をたたき合うのが戦争だ」と軍事の専門家は一蹴した。

 「この法案が通ると、自衛官は世界中で血を流す。自衛隊に入る人がいなくなるだろう。その次に来るのは徴兵制だ」と行く末を案じた。

 防衛官僚を40年務め、山﨑拓防衛庁長官の下で広報課長を務めた柳澤氏は「自衛官と国民をつなぐのが防衛官僚の仕事だった。一番戦争をしたくないのは俺たち自衛官だよなと言うのをしばしば聞いた」と吐露。自衛隊の活動には国民の支持と負託が不可欠との見方を示した。

 その上で、柳澤氏は「国民の支持を得てきたのは、災害派遣に貢献し、海外で1人も殺さず、殺されていないから。今度の安保法制をやると、海外で殺し、殺されることに。国民の負託を受ける根拠がなくなる」と指摘。「元防衛官僚として許し難い」と糾弾した。

止めるには輿論の力必要

 安全保障関連法案は16日午後に衆院本会議を通過し、参議院に送られる。9月後半日まで会期を延長した今通常国会では「60日ルール」適用も可能で、成立を止める余地はあるのか。

 この点について亀井氏は「輿論(よろん)の力」を挙げる。「参議院で成立せず衆議院に戻したら、『参議院を無視した』と輿論が湧きかねない。議会制民主主義の根底を壊した前提でやるのが許されるか。国民を敵に回せば、与党の中で良識を働かす人たちが出てくるはずで、そこで総理がどう変わるか」。

 藤井氏は「参議院でどういう結論が出るか」と述べ、今後の審議に期待する。田中内閣時に支持率が60%から20%に下がった例を挙げ、「こういうことが起きるのが世論。早く通さないとボロがどんどん出てくるはず。野党には追及だけはしておけと言っている」と主張。

 藤井氏は来年の参院選を「1つの山」と捉えた上で、「輿論を信じましょう」と国民の覚醒を呼び掛けた。