構造改革、民営化、市場原理主義の虚妄から、マインドコントロールを解くための参考図書館

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Kuroshio 142

 ツムヴィンケルは、日本の郵政民営化をも声高に主張して、来日して「官邸コンファランス」で基調講演もした。香港上海銀行の東京支店が来日の世話をした。竹中平蔵氏(当時は大臣)との写真(ツーシヨツト)も残る。ドイツポストは、米国の急送市場に90億ドルに及ぶ巨額を投資しDHL社を買収して華々しく国際物流市場に進出した。金融部門のポストバンクは、サブプライムローンと直結する莫大な不良債権を抱えていることが発覚して、2007年決算で破綻の可能性が報じられ、郵便局施設の不動産を担保に借り入れを行い急場をしのいだ。2008年1月、ドイツは、国内郵便の独占領域を廃止して完全自由化したが、表裏一体で郵便事業における最低賃金制度の導入を図った。新規参入事業者が賃金を不当に低くすれば公平な競争が行われず、ユニバーサルサービスが維持できないので最低賃金制度で規制するとの理屈だったが、逆に新規参入事業者が破産して、ドイツポストの国内郵便独占が生じる奇妙な結果となった。2008年2月14日、メルケル政権は、脱税・外為法違反の容疑でツムヴィンケルを逮捕して失脚させた。竹中氏と会談を重ねた米国通商代表のゼーリック氏と同じくビルダーバーグ会議に所属し、モルガンスタンレーの社外重役だったことが暴露され、ドイツの郵政民営化は、米国の投資ファンドと連携した買収と拡張のビジネスモデルの破綻を象徴した。

オランダでは、TNTの全面撤退に伴い、人員整理が一万人規模にふくれあがり、民営化の美辞麗句が達成されないばかりか、深刻な雇用問題が起きた。日本では、日本郵便と日本通運が業務提携をして共同で子会社を設立する協業化が図られたが一千億の大赤字を出して破談となる失態があった。郵便と物流との本質的な相違についての理解すら欠落していたが、何等責任追及が行われていない。欧州では、市場原理主義的な郵政民営化路線は大きく後退して、EU委員長が、市場原理主義は最早万能ではないと明言する事態に至った。無制限なグローバル化の見直しについて、フランスのサルコジ大統領が、「競争がイデオロギーとドグマになっている、保護主義は最早タブーではない」と発言したこともある。2007年6月に開催されたヨーロッパ議会では、2009年からヨーロッパ域内の郵便市場を完全自由化するという委員会の原案を反対多数で否決している。全面反対ではなく、決定を二年繰り延べるという妥協案も採択されたが、その後リーマンショックがあり、市場原理主義の動きは止まった。イギリスでは、2006年から国内郵便を自由化したが、自由化の利益が家計や中小企業には利益がなく、また不公正競争が横行して、大口利用者の利益が浸食されるだけの結果を生んだだけであった。株の売却は、イギリスの国損になったとの指摘がある。イタリアやスイスの国営の郵政事業は、予想に反して堅調な経営を見せて、コアビジネスに集注する経営を続けたことから、世界的な金融危機の影響を最小限に留めた。郵便物数は、国内の景気、特に金融部門と関連する要素が大きいが、落ち込みがもっとも激しかったのは米国郵政である。イギリスやドイツ、オランダ、日本では、景気低迷によって郵便物数が減少した。国際郵便は、貿易の指標とほぼ連動して物数予測が出来るから、逆に営業努力などの要素が、成果として簡単に指標化できるのは興味深い。世界的な金融危機の混乱の中で、郵便貯金はむしろ、商業銀行に対する信用低下に反比例するように再評価された。ヨーロッパや、アジアの国々で金融危機が伝えられると、銀行から郵便局の窓口に預金を移そうとして、利用者が殺到する現象もあった。経済危機の時には、郵便事業の経営が悪化して郵便収入は大幅に低下して雇用問題が発生する。後納郵便物が減り、また、不正が発生する蓋然性が高まり、郵便局の設置数が減る可能性が生じるが、郵便貯金は逆に増加するのが通例である。米国は、1966年に郵便貯金を廃止してしまったが、今回金融危機があり、また、郵便局に郵便貯金事業を再開すべきだとの議論が起きている。フランスの郵便貯金は堅調であり、ラ・ポストの収入の23%を占めて、口座数は、1100万を超える。イタリアは、郵便貯金と保険の販売も行っているが、堅調で、郵便貯金部門は、クレジット口座のみで350万口座を保有している。保険部門は、イタリア最大の保険事業となっている。民営化後、事業収益の縮小が顕著となった日本のかんぽ保険とは異なる状況である。スイスでは、スイスの二大市中銀行が、サブプライムローンに関連する投資で巨額の損失を引き起こした時、郵便局の信頼に人気が出て、スイス国民が郵便局に殺到する事態となって新規の口座が急増したとの報告がある。アイルランドでは、世界的な金融危機で最も打撃を受け、国家破産に近い状況に立ち至ったが、2007年に郵便貯金を開始していたので、却って信頼を得て僅かに一年半の間に、1000を超える新たな拠点で窓口サービスを開始している。イギリスでは、郵便貯金銀行設立をブラウン首相が公言した。支那では、郵便貯金は郵政備蓄と呼ばれているが、中国郵政の制度は、日本の郵便貯金制度を模して導入したものであり、後発であるにも関わらず、中国農業銀行、中国興業銀行等に次ぐ貯蓄残高としては第四位の地位を固めている。2億三千万枚という天文学的な数の備蓄カードを発行している。郵政備蓄は、三万六千の郵便局で取り扱われており、大多数の窓口が農村にある。ニュージーランドは、郵政民営化を実行して失敗し、その後に、キウィバンクとの愛称で呼ばれる郵便貯金銀行を再建している。現在経営は好調で、住宅ローンと住宅保険の分野で圧倒的な市場シェアがある。郵便物が減少する中で、郵便貯金分野がなければ、郵便局自体が支えられなかった可能性が高いと、ニュージーランド郵政の経営幹部は述懐している。

日本の郵政民営化の経営状況の真相はどうだったか。西川善文日本郵政初代社長が民放テレビの番組に出演して発言したことがある。「経営は軌道に乗っていた。前期(2009年3月期)の当期利益は4200億円とNTTグループに次ぎ二位」と誇示して、「早期に上場して、市場ガバナンスを根着かせなければならない」と発言した。郵政公社から株式会社に移行した前前期の利益である2200億円に比べれば業績は持ち直したのであるが、その前の公社時代の4年間の各年の利益に比べると半分以下に低下した業績であった。2007年3月期の利益は4年間の最低で、9425億円、最高が、2004年3月期のなんと2兆3018億円であったから、4200億という数字は評価に値しないにもかかわらず、軌道に乗ったとの的外れの発言をしている。また、ゆうちょ銀行や、かんぽ生命の新規契約残高は著しく減少して、更には、景気後退の側面から致し方ない面があるにせよ、郵便物の取扱高は下落していた。住友銀行頭取であり、全国銀行協会会長の人物が日本郵政の社長に就任するという利益相反の違則があり、世界の郵政の現実からも疎いことを露呈した発言であった。日本の郵政民営化は、ドイツやオランダの民営化と同様に失敗に終わったと断言すべきだった。郵政株式凍結法が成立して、市場原理主義的な経営手法を一掃することとして日本の郵政の経営陣の一部更迭が行われたが、安倍第二次政権の成立によって、またぞろ、市場原理主義の経営が復活してしまった。民営化で失敗して国営化して再興したニュージーランドのキウィバンクなどの堅調な経営や、欧州統合の中で、堅調な経営に徹したイタリア郵政や、バス会社などを経営し、ネスレなどの民間から人材を登用しながら、ユニバーサルサービスに徹するスイス郵政の動きが参考になると思われるが、一顧だになされていない。日本の郵便貯金制度を導入した支那の郵政備蓄の制度なども称賛されるべきものである。日本は、民営化して国際活動を大幅に削減して、むしろ国際的影響力を低下させた。郵便貯金や簡易保険のビジネスモデルの海外普及の展開などが期待されていたが、そうした進取の気風をも喪失する状態になっている。米国における郵便貯金の再導入の動きや、イギリスにおける郵便貯金銀行設立の公約の発表など、公的な小口金融制度を再評価する動きが活発化していることも注目に値するが、日本では全く報道されず、新自由主義の旧態依然の民営化路線が強行されて、失敗が放置されるばかりだ。

日本郵政は、グループ三社の新規株式公開を、民営化から八年を経て強行しようとしている。総額は一兆円を上回り、株主数は100万人にも達するとみられるが、何の為の上場かはっきりせず、買収や提携話がマスコミを賑わしているのは、失敗に終わったドイツやニュージーランドの郵政民営化の失敗の過程で見てきた既視感(デジヤビユ)の世界である。日本郵便が豪州の物流企業の株式を六千二百億で買収することを決断したが、49%のプレミアムをつけて、大盤振る舞いだったことも報道され、上場に備えた「お化粧」との見方すらある。日本の郵政民営化は、業務には問題はなく、「簡保を郵政事業から切り離し完全民営化して、全株を市場に売却せよ」との外国勢力の要求に従い、日本国民が営々と蓄積した資産の支配を、タチの悪い外国勢力の虚偽宣伝の圧力と恫喝に屈して譲り渡すことでしかなかった。親子会社の同時上場は、利益相反と指摘されているが、粉飾決算をした東芝の経営者が証券取引所の長となり、郵政民営化推進委員会を取り仕切り、郵政持ち株会社の社長に就任しているのは、明白な利益相反だ。株式上場と外資への売却を即刻中止すべきだ。郵政事業は世界で、国営事業として安定的に推移している。日本郵政は、全国津々浦々の利用者に奉仕することをこそ優先し、公営の独立採算の経営形態に復古すべだ。(つづく)

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