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2016年2月

Kuroshio 153

珊瑚と珊瑚礁が産みだしたもの

●沖縄の本部半島にある備瀬(びせ)の海岸の珊瑚礁をホテルの窓から眺めながら、この神々しい豊饒の海原の広がりが、珊瑚という動物の残骸が積み上がってできたことを想像して、違和感を感じた。日本語の動物という言葉は、西洋の分類学の導入の過程で新しく造られた近代用語であり、動物には禽獣虫魚としての感覚が強く、白い砂浜に転がっている白い棒状の石が珊瑚という動物の骨格であり、白砂の大部分が貝殻ばかりではなく、動物の骨格が粉々に砕けたものであると想像することは困難である。古生代の珊瑚と中生代から現在に至る珊瑚とは種類が違うというが、造礁珊瑚が繁茂した時代があり、珊瑚という動物が石灰岩を営々と、しかし急速に産み出し造礁が行なわれた。世界には造礁珊瑚の死骸が何と数百mの厚さにも積み上がって石灰岩の山となっている場所が多々あるが、新しい石灰岩の層は一万年程度の時間がかかっただけだ。南北の大東島に行くと、島の周囲は断崖絶壁になっているが、珊瑚が島に壁をくっつけたかのように石灰岩の壁をつくり、後に隆起して、島の中心部に池や窪みを残している。南大東島では隆起珊瑚礁の壁を壊して港を築く大工事をしたが、白い石灰岩からなる珊瑚礁の壮大な厚みを目で確認できる。飛行機の窓から眺める南沙諸島の環礁なども珊瑚が悠久の時間の中で造形した形である。日本の最南端の島である南鳥島も典型的な珊瑚の環礁だ。屋久島の南の吐噶喇(とから)は日本列島における珊瑚礁の北限になっているが、黒潮の流れに沿って、宮崎から足摺、室戸の岬、和歌山の潮岬、伊豆半島から房総の館山湾に至るまで海中には珊瑚が成育しており、駿河湾の奥の江之浦あたりでも、珊瑚の群落があった。日本列島の脊梁山脈には珊瑚の化石が残っており、太古には温暖な浅い海であったことを示している。
●珊瑚礁の海域は海の〇・一%を占めるにすぎない。南東アジアにある珊瑚礁が世界の三〇%、太平洋にあるものが四〇%で、大西洋とカリブ海には約八%ある。紅海とインド洋にその残りがある。アフリカ大陸南西海岸や米国の西海岸、そしてインド半島の東端からバングラディシュにかけての南アジア、そして南米大陸のアマゾン河口には珊瑚の生育がないのも特徴である。寒流が湧昇流となっている場所であり、摂氏二〇度が境界の温度だ。深海の珊瑚には、さらに低い温度の海水の中で生育している種類もある。豪州大陸の東海岸にあるグレイトバリアリーフが世界最大の珊瑚礁で、次がメキシコのユカタン半島に広がる珊瑚礁である。パプアニューギニアの珊瑚礁には生物が最も多様に成育する。
●宝石となっている珊瑚は、珊瑚礁の珊瑚と同じように、動物の骨格であることは変わらないが、色がついていて宝飾品となっている。正倉院の御物としても珊瑚が残っているが、漢字の表記の通りに、胡、すなわち西域のペルシアから唐の時代の支那を経由して渡来した珊瑚で、日本で産出したものではない。大和言葉で真珠を「しらたま」「まだま」と呼んだが、珊瑚には適当な大和言葉はない。また縄文・弥生時代の遺跡からも宝飾品としての珊瑚が発掘された例はないから、珊瑚を愛でる感覚は、奈良時代以降の外来のものである。江戸時代には、豪商が珊瑚を刺繍に入れ込んだ豪勢な衣装もあり、刻み煙草を入れる根付けやかんざしの飾りに多用されたが、素材はインド洋産の珊瑚だった。地中海では浅い海で宝飾用のベニ珊瑚を採集することができたので、ローマ帝国の時代から重宝されていた。宝飾用珊瑚の上級製品には、今でもイタリアの島の「サルジニア」の名前がついているほどである。ナポリ近郊のトレ・デル・グレコには、宝石珊瑚の市場と加工場があった。明治中期ごろ採集技術が向上して深い海での珊瑚採集が可能になり、日本近海でモモイロサンゴが発見されて、土佐の高知などは世界的な宝石珊瑚の一大産地となり、地中海の宝石珊瑚の集積地であったイタリアから多くの商人が買付けに来日したほどだが、今は足摺岬の千尋崎のサンゴ博物館も廃館になった。
●珊瑚は石材としても有用である。変成石灰岩の大理石が珊瑚由来のものであるから、レオナルド・ダヴィンチの制作した石像は珊瑚生産の副産物とも考えることができる。装飾用建材としての変成石灰岩の大理石であるトラバーチンはイタリアが生産をほとんど独占していた。日本では奄美の沖永良部島で、大理石のトラバーチンが珊瑚礁から採掘され、国会議事堂などの建材として使われた。沖縄本島の今帰仁(なきじん)の城壁など世界遺産となっている石垣も、珊瑚由来の琉球石灰岩である。
●珊瑚の意外な使い方として、米海軍の支援を受け、潜水艦探知のソナーの精度向上に「珊瑚の三次元連結構造を利用した圧電コンポジット」が開発されていたことにも触れたい。珊瑚のポリプには海水流のささやかな揺らぎをも検知する精密な機構が備わっているらしい。 (つづく)

Kuroshio 152

黒潮の民の指笛

●『悪魔が来たりて笛を吹く』というおどろおどろしい題名の映画を見た記憶がある。主演は片岡千恵蔵で、昭和二九年に封切になった東映の映画だ。笛吹童子の映画も見た記憶があるが、元はNHKのラジオドラマとして昭和二八年に放送されているから、子供の時に有線放送で聞いたのだろう。
 笛は気流を口で吹いて起こして音を出す楽器の一般名称であり、日本書紀には、「天之鳥笛」として書かれ、万葉仮名では「輔曳(ふえ)」と表記される。尾篭な話であるが、おならのことを屁(へ)と言い、南島ではフィーと発音するが、笛の語源と関係があると筆者は推測している。大陸からの笛が色々伝わる以前にも、独自の横笛があったことは確認されており、神社の境内で奉納されるお囃子などを聞けば、古来の笛の音の名残があるように思われる。法螺貝の重低音の嶺峰に響き渡る笛のことについては、その貝そのものが黒潮文明の特産品であって、修験道の山伏の必需品になっている経緯について、吉野の金峯山蔵王堂のことを書いた時に触れたと思うが、羽黒山神社でも吉野の蔵王堂の近くでも、法螺貝を加工する業者があり、修験者の装束一式と共に高値で売られている。音を発生させる道具のひとつとしての笛は、多種多様である。金属製の笛に至っては、色々な形や音色が無尽蔵にある。
 西洋のフルートは、フランシスコ・ザビエルと共に日本に渡来したことがポルトガルの文献に記録されているとのことだ。縦笛も横笛も、フルートの多様な形や音色について詳細を述べることは今は避けたい。西洋の一部では、指笛を吹くことは悪態をつくか揶揄することと見なす文化の国もあると言う。海軍の水兵さんが、港で妙齢の女性に口笛で呼びかける習慣もあったようである。笛もホイッスルとなると完全な道具で、警察官用のホイッスルが有名であり、英国で発達した。呼子笛は、刑務所の刑務官が必携しなければならないホイッスルである。音は甲高くピリピリと聞こえるから、脱獄の緊急事態の連絡に有用な笛だ。
●アジアの竹製の笛も多種多様である。口の息を使って音を出さずに鼻息を使って音を出す楽器も東南アジアにあると言うが、日本ではさすがに、鼻歌を唱うという表現だけがあり、黒潮の民の楽器に鼻笛は見当たらない。道具を使わない笛は、口笛と指笛である。鳥を寄せたり、動物に指図をしたりするときに口笛がよく使われている。繁殖期のメジロなどは人の口笛で呼び寄せることができ、人が口笛を吹くとそれに応える形で実際に囀(さえず)るのである。確かに犬猫も人間の口笛に反応する。牧羊犬の場合には口笛が多用され、単純な口笛ではなく、高音域で遠くまで音が届くように歯を使った口笛が多用される。インドの蛇遣いがコブラを陶器の壷から首を出させ笛の音で踊らせている漫画があるが、そんな具合に、日本の列島でも、夜中に口笛を吹くと、毒蛇に加えて魔物を呼び寄せてしまうことになりかねないから、夜中に口笛を吹くことは禁忌であった。歌垣や夜這いの合図が口笛だったため、夜に口笛を吹くと異性に襲われるとの説もある。トンネル内で口笛を吹くと事故が起こるということで、トンネル工事の際には口笛は厳禁されている。
 口笛の古称は嘯(うそ)、あるいは嘯き(うそぶ)で、口笛を吹くことが嘯(うそぶ)くである。唇だけではなく、歯と舌で音を調整して発音する歯笛がある。歯笛の方が口笛に比べて高音域を大音量で出すことができる。海女が海面に出た際に息を整えるために歯笛で音を出し、海女(あま)笛と呼ばれる。位置を知らせる目的で使用され、高音域で数百㍍先にも届くという。世界には口笛で或る程度のコミュニケーションをとる言語が少数ながらあり、またイルカなどの一定のほ乳類は、耳に聞こえない超音波を発生して情報を、遙か遠方の海域に送受信していることも判っている。
●いよいよ指笛であるが、指をくわえることで音を出す方法で、吹き方は人差指をL地型にして口に入れる吹き方や、両手の指を四本揃えるやり方や、人差指あるいは中指と、親指とを閉じない輪を作り丸めて口に入れて吹くやり方などいろいろある。沖縄では、エイサーの踊りにも指笛を吹いているし、カチャーシーの踊りの時にも指笛を吹いているが、奄美の島々の場合には、闘牛大会のワイドワイドとかけ声をかけて太鼓をたたきながら一緒に指笛が吹かれている。島唄ともつきものとなっている。奄美大島では指笛のことをハトと言い、ハトの吹き方を教える講習会が開催されている。うれしいときや、景気づけをするために指笛が吹き鳴らされる、ハレの時に指笛が吹かれるのである。沖縄や奄美の出身者が皆揃って指笛が吹けるわけではない。指笛の大会もあるが、実は関東や関西の方に指笛名人が多い。
 人差指と中指との間に挟み、指笛に酷似した音を簡単に出せるように加工した貝殻細工を「月桃の香り」代表の今井良明氏が開発し一〇〇円で名護の道の駅・許田で販売している。筆者は指笛が吹けない島人(しまちゆ)なので、この新発明は大へん重宝している。
          (つづく)

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