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Kuroshio 152

黒潮の民の指笛

●『悪魔が来たりて笛を吹く』というおどろおどろしい題名の映画を見た記憶がある。主演は片岡千恵蔵で、昭和二九年に封切になった東映の映画だ。笛吹童子の映画も見た記憶があるが、元はNHKのラジオドラマとして昭和二八年に放送されているから、子供の時に有線放送で聞いたのだろう。
 笛は気流を口で吹いて起こして音を出す楽器の一般名称であり、日本書紀には、「天之鳥笛」として書かれ、万葉仮名では「輔曳(ふえ)」と表記される。尾篭な話であるが、おならのことを屁(へ)と言い、南島ではフィーと発音するが、笛の語源と関係があると筆者は推測している。大陸からの笛が色々伝わる以前にも、独自の横笛があったことは確認されており、神社の境内で奉納されるお囃子などを聞けば、古来の笛の音の名残があるように思われる。法螺貝の重低音の嶺峰に響き渡る笛のことについては、その貝そのものが黒潮文明の特産品であって、修験道の山伏の必需品になっている経緯について、吉野の金峯山蔵王堂のことを書いた時に触れたと思うが、羽黒山神社でも吉野の蔵王堂の近くでも、法螺貝を加工する業者があり、修験者の装束一式と共に高値で売られている。音を発生させる道具のひとつとしての笛は、多種多様である。金属製の笛に至っては、色々な形や音色が無尽蔵にある。
 西洋のフルートは、フランシスコ・ザビエルと共に日本に渡来したことがポルトガルの文献に記録されているとのことだ。縦笛も横笛も、フルートの多様な形や音色について詳細を述べることは今は避けたい。西洋の一部では、指笛を吹くことは悪態をつくか揶揄することと見なす文化の国もあると言う。海軍の水兵さんが、港で妙齢の女性に口笛で呼びかける習慣もあったようである。笛もホイッスルとなると完全な道具で、警察官用のホイッスルが有名であり、英国で発達した。呼子笛は、刑務所の刑務官が必携しなければならないホイッスルである。音は甲高くピリピリと聞こえるから、脱獄の緊急事態の連絡に有用な笛だ。
●アジアの竹製の笛も多種多様である。口の息を使って音を出さずに鼻息を使って音を出す楽器も東南アジアにあると言うが、日本ではさすがに、鼻歌を唱うという表現だけがあり、黒潮の民の楽器に鼻笛は見当たらない。道具を使わない笛は、口笛と指笛である。鳥を寄せたり、動物に指図をしたりするときに口笛がよく使われている。繁殖期のメジロなどは人の口笛で呼び寄せることができ、人が口笛を吹くとそれに応える形で実際に囀(さえず)るのである。確かに犬猫も人間の口笛に反応する。牧羊犬の場合には口笛が多用され、単純な口笛ではなく、高音域で遠くまで音が届くように歯を使った口笛が多用される。インドの蛇遣いがコブラを陶器の壷から首を出させ笛の音で踊らせている漫画があるが、そんな具合に、日本の列島でも、夜中に口笛を吹くと、毒蛇に加えて魔物を呼び寄せてしまうことになりかねないから、夜中に口笛を吹くことは禁忌であった。歌垣や夜這いの合図が口笛だったため、夜に口笛を吹くと異性に襲われるとの説もある。トンネル内で口笛を吹くと事故が起こるということで、トンネル工事の際には口笛は厳禁されている。
 口笛の古称は嘯(うそ)、あるいは嘯き(うそぶ)で、口笛を吹くことが嘯(うそぶ)くである。唇だけではなく、歯と舌で音を調整して発音する歯笛がある。歯笛の方が口笛に比べて高音域を大音量で出すことができる。海女が海面に出た際に息を整えるために歯笛で音を出し、海女(あま)笛と呼ばれる。位置を知らせる目的で使用され、高音域で数百㍍先にも届くという。世界には口笛で或る程度のコミュニケーションをとる言語が少数ながらあり、またイルカなどの一定のほ乳類は、耳に聞こえない超音波を発生して情報を、遙か遠方の海域に送受信していることも判っている。
●いよいよ指笛であるが、指をくわえることで音を出す方法で、吹き方は人差指をL地型にして口に入れる吹き方や、両手の指を四本揃えるやり方や、人差指あるいは中指と、親指とを閉じない輪を作り丸めて口に入れて吹くやり方などいろいろある。沖縄では、エイサーの踊りにも指笛を吹いているし、カチャーシーの踊りの時にも指笛を吹いているが、奄美の島々の場合には、闘牛大会のワイドワイドとかけ声をかけて太鼓をたたきながら一緒に指笛が吹かれている。島唄ともつきものとなっている。奄美大島では指笛のことをハトと言い、ハトの吹き方を教える講習会が開催されている。うれしいときや、景気づけをするために指笛が吹き鳴らされる、ハレの時に指笛が吹かれるのである。沖縄や奄美の出身者が皆揃って指笛が吹けるわけではない。指笛の大会もあるが、実は関東や関西の方に指笛名人が多い。
 人差指と中指との間に挟み、指笛に酷似した音を簡単に出せるように加工した貝殻細工を「月桃の香り」代表の今井良明氏が開発し一〇〇円で名護の道の駅・許田で販売している。筆者は指笛が吹けない島人(しまちゆ)なので、この新発明は大へん重宝している。
          (つづく)

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