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Kuroshio 153

珊瑚と珊瑚礁が産みだしたもの

●沖縄の本部半島にある備瀬(びせ)の海岸の珊瑚礁をホテルの窓から眺めながら、この神々しい豊饒の海原の広がりが、珊瑚という動物の残骸が積み上がってできたことを想像して、違和感を感じた。日本語の動物という言葉は、西洋の分類学の導入の過程で新しく造られた近代用語であり、動物には禽獣虫魚としての感覚が強く、白い砂浜に転がっている白い棒状の石が珊瑚という動物の骨格であり、白砂の大部分が貝殻ばかりではなく、動物の骨格が粉々に砕けたものであると想像することは困難である。古生代の珊瑚と中生代から現在に至る珊瑚とは種類が違うというが、造礁珊瑚が繁茂した時代があり、珊瑚という動物が石灰岩を営々と、しかし急速に産み出し造礁が行なわれた。世界には造礁珊瑚の死骸が何と数百mの厚さにも積み上がって石灰岩の山となっている場所が多々あるが、新しい石灰岩の層は一万年程度の時間がかかっただけだ。南北の大東島に行くと、島の周囲は断崖絶壁になっているが、珊瑚が島に壁をくっつけたかのように石灰岩の壁をつくり、後に隆起して、島の中心部に池や窪みを残している。南大東島では隆起珊瑚礁の壁を壊して港を築く大工事をしたが、白い石灰岩からなる珊瑚礁の壮大な厚みを目で確認できる。飛行機の窓から眺める南沙諸島の環礁なども珊瑚が悠久の時間の中で造形した形である。日本の最南端の島である南鳥島も典型的な珊瑚の環礁だ。屋久島の南の吐噶喇(とから)は日本列島における珊瑚礁の北限になっているが、黒潮の流れに沿って、宮崎から足摺、室戸の岬、和歌山の潮岬、伊豆半島から房総の館山湾に至るまで海中には珊瑚が成育しており、駿河湾の奥の江之浦あたりでも、珊瑚の群落があった。日本列島の脊梁山脈には珊瑚の化石が残っており、太古には温暖な浅い海であったことを示している。
●珊瑚礁の海域は海の〇・一%を占めるにすぎない。南東アジアにある珊瑚礁が世界の三〇%、太平洋にあるものが四〇%で、大西洋とカリブ海には約八%ある。紅海とインド洋にその残りがある。アフリカ大陸南西海岸や米国の西海岸、そしてインド半島の東端からバングラディシュにかけての南アジア、そして南米大陸のアマゾン河口には珊瑚の生育がないのも特徴である。寒流が湧昇流となっている場所であり、摂氏二〇度が境界の温度だ。深海の珊瑚には、さらに低い温度の海水の中で生育している種類もある。豪州大陸の東海岸にあるグレイトバリアリーフが世界最大の珊瑚礁で、次がメキシコのユカタン半島に広がる珊瑚礁である。パプアニューギニアの珊瑚礁には生物が最も多様に成育する。
●宝石となっている珊瑚は、珊瑚礁の珊瑚と同じように、動物の骨格であることは変わらないが、色がついていて宝飾品となっている。正倉院の御物としても珊瑚が残っているが、漢字の表記の通りに、胡、すなわち西域のペルシアから唐の時代の支那を経由して渡来した珊瑚で、日本で産出したものではない。大和言葉で真珠を「しらたま」「まだま」と呼んだが、珊瑚には適当な大和言葉はない。また縄文・弥生時代の遺跡からも宝飾品としての珊瑚が発掘された例はないから、珊瑚を愛でる感覚は、奈良時代以降の外来のものである。江戸時代には、豪商が珊瑚を刺繍に入れ込んだ豪勢な衣装もあり、刻み煙草を入れる根付けやかんざしの飾りに多用されたが、素材はインド洋産の珊瑚だった。地中海では浅い海で宝飾用のベニ珊瑚を採集することができたので、ローマ帝国の時代から重宝されていた。宝飾用珊瑚の上級製品には、今でもイタリアの島の「サルジニア」の名前がついているほどである。ナポリ近郊のトレ・デル・グレコには、宝石珊瑚の市場と加工場があった。明治中期ごろ採集技術が向上して深い海での珊瑚採集が可能になり、日本近海でモモイロサンゴが発見されて、土佐の高知などは世界的な宝石珊瑚の一大産地となり、地中海の宝石珊瑚の集積地であったイタリアから多くの商人が買付けに来日したほどだが、今は足摺岬の千尋崎のサンゴ博物館も廃館になった。
●珊瑚は石材としても有用である。変成石灰岩の大理石が珊瑚由来のものであるから、レオナルド・ダヴィンチの制作した石像は珊瑚生産の副産物とも考えることができる。装飾用建材としての変成石灰岩の大理石であるトラバーチンはイタリアが生産をほとんど独占していた。日本では奄美の沖永良部島で、大理石のトラバーチンが珊瑚礁から採掘され、国会議事堂などの建材として使われた。沖縄本島の今帰仁(なきじん)の城壁など世界遺産となっている石垣も、珊瑚由来の琉球石灰岩である。
●珊瑚の意外な使い方として、米海軍の支援を受け、潜水艦探知のソナーの精度向上に「珊瑚の三次元連結構造を利用した圧電コンポジット」が開発されていたことにも触れたい。珊瑚のポリプには海水流のささやかな揺らぎをも検知する精密な機構が備わっているらしい。 (つづく)

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