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Kuroshio 154

台南大地震の現場にて

●「見ると聞くとでは大違い」とはこのことだ。台南で大地震があったので、台湾旅行の機会を捉えて、現場に赴くことにした。羽田空港から日本航空の直通便で台北市内の松山(ソンシャン)空港に向かう。松山空港に直結する松山機場駅で市内電車(MRT)に乗る。この市内電車は無人運転で高架軌道を走る。台北の市内鉄道システムはドイツ製だ。バンコクやマニラでもドイツ製が導入されているところを見ると競争力のあるシステムらしい。日華事変の際、国民党にドイツ人の軍事顧問がいて、日本はドイツ製最新兵器でコテンパンにやられて敗走したことがある。朝や夕方の通勤時間帯にはひっきりなしに自動運転されており、ラッシュアワーの時でも押しくらまんじゅうのような混み具合にはならない。三つ目の駅の忠孝復興駅で地下鉄に乗り換えて、台北車站、つまり、鉄道の台北駅で下車する。EASYCARDという電子カードを買っておけば、小銭を使わず改札を通過できるのは、東京のスイカやパスモと同じだ。高速鉄道で台南に向かう。切符は、日本出発前にネットで予約をして代金をクレジットカードで払ってあったから、予約番号などを書いた一枚の紙を印刷しておいて、それを窓口にパスポートと一緒に差し出すと切符に変えてくれる。外国からの旅行客を奨励しているらしく、ネット予約をすると、二五%割引の運賃になっている。ただし、片道だけの割引だ。三日間の乗り放題の切符もネットで売られている。高速鉄道の車両は日本製であるから、日本の新幹線仕様である。出入口のドアが自動ではなく押しボタンがあって、それを押さないと開かないようになっている。非常用のハンマーが備え付けられていて、非常時には窓を叩き割って脱出せよとの注意書きがある。高速鉄道の台南駅は台南の市街地から遠いところにあるから、高速鉄道を降りてから、台南の市内駅、台鉄の台南駅と連絡する列車に乗り換える。台鉄というのが在来線の呼び方だ。但し、高速鉄道と連絡する線は新しく建設されている。台中も高鉄、つまり新幹線の駅と台中の市街地とが遠く離れているので、市街地に行くにはタクシーが便利で、日本円で千円位の料金で、しかも安心だと、もう百回は台湾を往来しているという、飛行機の隣席の乗客から聞いたところだった。嘉義の駅も市街地と離れていて、バスの連絡が良かったと記憶している。台南駅前のホテルを予約していたが、料金は朝食込みで、一泊二六五〇台湾ドルだった。台北で泊まったホテルは設備は真新しいが、高層ビルの一四階を改装して、朝食を階下のハンバーガー屋から取り寄せて出した。そのホテルが三三〇〇ドルもしたから、台南は台北と比べると物価が相当安いらしい。駅では物乞いをしている人の姿も見かけ、台南には絶対貧困があることも想像した。
●駅前で学生と思しき若者から話を聞いた。地震で完全に倒壊したビルは二棟あって、一棟は台南市内の永康区の永大路二段という場所にあった維冠金龍大楼というビルで、もう一棟は新化区という場所にあるビルである。台南市中心から遠い場所なので、ホテルでタクシーの手配をして貰い、維冠大楼の倒壊現場に行くことにした。タクシーのメーターが二〇〇ドルを少し超えたところで、つまり日本円で千円になるかならないかの距離で現場に着いた。道路は封鎖されていて現場に立ち入ることはできないが、写真撮影のために近寄ることはできた。重機の作業機械が動いており、倒壊したビルの残骸はほとんど撤去されて整地されていた。ビルは地下室をもぎ取るように倒壊したらしく、道路を跨いで倒れ、道路の向かい側の建物も押しつぶしていた。現場には弔いの花束が一〇束ほど手向けられていたから、まずは黙祷を捧げた。周りの屋台の入った建物などには異常が見られないので、不思議に思われた。夕方に会った台南在住の日本人の知人からは、アパートに亀裂が入ったので住居を変える羽目になったことや、おそらく両手の指の数くらいの建物に亀裂が入ったり傾いたりしているのではないかとの情報を得たが、日本のテレビで報道された映像では、もう台南が壊滅したような報道ぶりだった。だが、来てみると、全く限られた場所の被害で、天災と言うより、腐敗と手抜き工事が原因の局地的な人災であることを現場で痛感したことだ。宿泊した駅前のホテルも古い建物だったが、従業員は太い黒光りのする柱を自慢げに指さし、無傷だったと言った。そのついでに「倒壊したビルは台北の業者がカネ儲けに狂って建てたのだ」とコメントしたのは、微妙な地域間の競争対立を想像させて興味深いことだった。日本統治時代の建物が修復されているが、林百貨の店員に地震はどうだったかと聞いたら「品物が落ちて散乱することもなく、ビクともしなかった」と言う。今は古蹟となった台南州知事官邸も台南州庁舎も無傷で、公会堂、測候所、武徳殿、愛国婦人館も、全てが地震に耐えた。大陸の孔子廟は共産党が破壊したが、台南の廟は日本統治時代にも温存されて四〇〇年の歴史を保ち、今回の地震でも壊れなかった。台南はさながら台湾の京都となった。 (つづく)

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