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2017年6月

Kuroshio 183

甘南備と神籬

●カンナビとは、神の在ます山のこと まし である。漢字で、神隠、神奈備、甘南 備、神名備、神名火、珂牟奈備、賀武 奈備などと書かれるが、要するに純粋 なやまと言葉の神の火の音に、漢字を か ん な び 充てたものである。神の火が、火山を 連想させることは当然で、富士山のよ うな活火山はもちろん、日本列島の至 る所にある死火山、休火山の区別なく、 秀麗な山を崇敬する山岳信仰が縄文時 代からあったに違いない。社殿が造営 されるようになったのが弥生の時代か らにしても、社殿のない古い時代から の火山に対する畏怖・畏敬と信仰が今 に続いて、各地の一宮はもとより、大 きな神社が、神の居る山の麓に鎮まっ ている。社殿ができるようになったの はずっと後の時代であって、大和朝廷 の成立とも関係していると思われるの は、その縁起にわざわざ「坂上田村麻 呂が建立した」などと強調した記録が 残っているからである。 火山の噴火の記憶があれば、カンナ ビの山は、浅間(アソ+ヤマ)と呼ば あ さ ま れるようになったとの説がある。アソ とは日本の最も活発な火山活動をして いる阿蘇山として名前が残り、噴火を 伴う活火山を象徴する。富士山も本来 の山体の名前は「浅間山」ではなかろ
うか。であるからこそ、浅間神社本社 が富士山麓にあるのも、無理はない。 コノハナサクヤヒメの神話は、荒廃し きった火山の麓に新たに降臨して、大 地を開墾する姫君による大地の再生の 物語と考えれば納得がいく。 青森の三内丸山遺跡や鹿児島の錦江 湾の奧のカルデラのシラス台地の縁に ある上野原遺跡は縄文時代に大集落と して栄えたが、忽然としてある時代に 姿を消した。前者の場合には岩木山、 後者の場合には、霧島や桜島の活発な 火山活動による深刻な降灰等が原因と なる大被害が起きて、人口が離散した ことが想像される。その後、天孫降臨 が日向の地にあり、神武東征に至る建 国神話が形作られたのだ。 倭は 國のまほろば たたなづく 青垣 山隱れる 倭しうるはし との歌は、古事記の景行記に倭建命が 詠んだとして、 「夜麻登波 久爾能麻 本呂婆 多多那豆久 阿袁加岐 夜麻 碁母禮流 夜麻登志宇流波斯」と記し、 日本書紀景行条では大足彦忍代別天皇 おほたらしひこおしろわけ (景行天皇)の御製として、 「夜麻苔 波 區珥能摩倍邏摩 多々儺豆久 阿 烏伽枳 夜麻許莽例屡 夜麻苔之于屡 破試」と記すが、いずれにしても火山 活動による降灰などの災害を克服して
山々の木々を繁茂させるべく、雄々し く起き上がる姿を詠んだ歌であろう。 ●さて、火山灰が降り積もった大地に 植えた植物はなんだろうか。大麻の学 名が、カンナビス・サティーバである ことが気になる。語源は、ラテン語で あり、ギリシア語であるが、縄文時代 からあると考えられるカンナビの言葉 が語源である可能性もあり得ないこと ではない。大麻は神と人とを媒介する おおぬさ 神道祭祀の根幹にあり、麻は絹よりも 上位にあったのは、救荒植物としての 麻を崇めてきた証左ではないだろうか。 敗戦後、麻は麻薬にされてしまったが、 全く別物で、麻薬は痲薬と書くべきも ので、日本語では字を違えて書いて毒 のある痲と有用植物としての麻とを区 別していたことを強調しておきたい。 全国に麻生の地名や姓が残るが、霧島 や桜島の大火山の麓にある薩摩とは、 さ つ ま 麻が生産される土地であることを漢字 で表現している地名であることを再度 明らかにしておきたい。 ●ヒモロギとは、神の 坐 す森のこと ましま である。神籬とも漢字で充てている。 伊勢神宮の別宮である滝 原 宮はヒモ たきはらのみや ロギの典型である。交通も便利となり 高速道路も近傍を通過しているが、鬱 蒼とした森は、縄文の森の典型で、皇 大神宮の遙 宮と呼ばれるだけの荘厳 とうのみや な森である。社殿は簡素で黒潮の民と の繋がりを体感できる荘厳な聖地であ
り、日本人ならば一度は訪れて欲しい 鎮守の森である。能登国の一宮である 気多大社の入らずの森、山城国の一宮 け た である京都の下賀茂神社の糺すの森も、 ただ 典型的なヒモロギである。昭和五八年 五月二二日、全国植樹祭で石川県に行 幸された昭和天皇は、入らずの森に踏 み入られ、御製を詠まれた。 斧入らぬみやしろの森めづらかに からたちばなの生ふるを見たり 奈良市街の東方に位置する春日山原始 林は、春日大社の神域として狩猟や伐 採が禁止されて人工的に原始性を保っ てきたヒモロギであり、明治神宮の森 が人工的に造られていることと本質的 に同じで、いずれも神が宿りおられる やど 場所である。お祓いをする道具の大麻 おおぬさ は、ヒモロギ、つまり神が降誕する依 り代の森を象徴化したものである。日 本の原始の森の霊気で祓い浄めている のである。道具となったヒモロギは、 生木の 榊 の枝に、木綿や麻苧などを さかき ゆ う あ さ お ぶら下げて森林を表現している。 ●最後に忘れないように、隼人のハヤ が南という意味で黒潮の民の証拠では ないかと仮説を呈して書き残したい。 マリアナの言葉でハヤは南の意味だ。 確かに沖縄に南風原があり徳之島にも は え ば る 南原がある。 「 南風の吹く夜は眠られ はいばる は え ぬ 」 と奄美新民謡「島育ち」の一節を 田端義夫が歌った。熊野速玉大社のハ はやたま ヤも南ではないか。 (つづく)

Kuroshio 182

火山と建国神話の神々

●日本列島の火山帯は、北から南まで 一筆書きのように繋がる。日向の霧島 火山の麓を発って、カルデラの形跡す ら判然としない紀伊半島の死火山の熊 野を経て、もっと安定した盆地の大和 に民族の中心を移動させたことが神武 東征の物語ではないだろうか。 火山の神々が日本神話の中枢にいる のだとすれば、興味と関心は、近隣の 済州島や朝鮮半島の神話はどうなって いるのかに移る。朝鮮半島の代表的火 山は、白頭山(支那では長白山と呼ぶ。 吉林省延辺朝鮮族自治州、同省白山市 と北朝鮮の国境にある標高二七四四メ ートル。頂上に「天池」と呼ばれる直 径約四キロのカルデラ湖がある)であ り、神話は壇君神話である。桓因とい う天帝の庶子の桓雄が白頭山に降り立 ち、そこに居た虎と熊との夫婦がいた が、虎を追い払い、祭壇の上で人間に 化身した熊女と結ばれる。檀君王倹が 生まれ、檀君は支那の堯帝が即位して 五〇年目の庚寅の年に白頭山を下り、 平壤を都と定め朝鮮を建国したとする 神話である。桓雄は、日向の高千穂峯 に降臨した瓊瓊杵尊に似て、熊女もコ ノハナサクヤヒメに近似する。熊が火 山の化身であれば、コノハナサクヤヒ メも同様に火山の女性神だからである。
さらに白頭山は、満洲族にとっても 民族の発祥と深く関わる聖山で、白頭 山の池に水浴びをしていた天女が身ご もり、始祖となる布庫里雍順を産み、 その子孫が清の初代皇帝ヌルハチへと 続く物語がある。清の皇帝、康煕帝、 乾隆帝、嘉慶帝は、祭礼を執り行なう ために、祖先発祥の地の白頭山へ足繁 く運び、禁忌の山としていた。 白頭山は九四六年に壊滅的規模の噴 火を起こし、火山灰は一〇〇〇キロ以 上離れた日本列島に降り注いだ。北海 道や東北地方で白頭山火山灰の真下に 十和田湖の平安噴火(九一五年)の火 山灰があることが確認されているから、 先ず日本列島で大噴火があり、その後 に朝鮮半島の活火山の活動に影響を与 える順序があると考えられる。白頭山 の大噴火は文献には残されていない。 支那では唐が滅亡して「五代十国」と 混乱の時代が続き、渤海が亡び契丹が 起こった。高麗は版図を確立していな かったので正史の中に大噴火の記録は 残らなかったが、大噴火の存在は考古 学によって証明確認されている。 ●済州島は典型的な火山島で中央に漢 拏山(一九五〇メートル)があり、側 火口が三六〇余りもある。噴火口跡が 残り、島の西側には海底火山もある。
済州島の火山活動は、七三〇〇年前の 鬼界カルデラの大爆発の火山灰が済州 島に残っており、その上に火山灰が積 もっていることから、その後も継続し たことが判り、特に一一世紀には数度 の大噴火があったことが朝鮮の王朝の 記録として残る。 ●火山と鉱物資源とは密接な関わりが ある。火山地帯には豊富に鉱物資源が あることが常であるから、白頭山のあ る北朝鮮は、金・鉄・マグネサイト・ 無煙炭・銅を産出する資源大国である。 特にウランの推定埋蔵量は、世界最大 規模である。核兵器の製造のみならず、 核燃料製造にも国内で自力調達できる から、国連の核物質の禁輸措置も北朝 鮮には全く効果がない。ウラン鉱山と 精錬施設は平安北道の博川、黄海北道 の平山などにある。白頭山からは黒曜 石も出る。北海道の十勝、本州の和田 峠、伊豆七島の内の神津島が黒曜石の 生産地となって日本列島の各地に供給 されたのと同じ状況が朝鮮半島でも発 生して白頭山が王朝発祥の地として地 の利を占めていた可能性を想像させる。 日本では人形峠にウラン鉱山が発見さ れているが、出雲の火山地帯の一部だ。 石見銀山、佐渡金山、世界一の金山で ある菱刈鉱山はすべて、出雲から阿蘇、 霧島へとつづく火山地帯の中にある。 霧島火山帯は鬼界カルデラを経て、南 西諸島沿いに西表島近くの海底火山に
至るが、豊富な鉱物資源が海底に眠っ ている可能性は極めて高い。尖閣諸島 の海底に石油資源があることが判って から支那が俄かに領有権を主張して国 際紛争が発生してるが、第一次列島線 の海底には、豊富な鉱物資源が開発を 待って眠っている可能性は極めて大き いから、今後日支間で国際紛争が拡大 する可能性があり、目が離せない海域 となっている。すでにメタンハイドレ ートの存在は確認され、支那は石油を 採掘している。千島列島から北海道の 山々、下北半島から十和田を経て、東 北地方の蔵王などを縦貫して、関東北 部の浅間山に至り、そこから箱根、富 士山と連なり、更に伊豆七島から小笠 原、遙かに鳥島、硫黄島に届く日本列 島の東側の火山地帯についても、海底 に稀少資源が豊富に眠っていることは レ ア メ タ ル 間違いない。スサノオの神は、まずは 出雲から朝鮮半島に降臨したが、白頭 山の大爆発を逃れて出雲に戻り、出雲 と熊野の古い死火山の鉱山地帯とを往 来し、遂に大和朝廷に服属する出雲の オオナモチという火山神の祖となった のだ! ●アレクサンドル・ワノフスキー、鎌 田東二ほかの共著『火山と日本の神話 ─亡命ロシア人ワノフスキーの古事記 論』 (桃山堂、二〇一六年二月刊)は 悠久の日本神話の本質を衝く良書だ。 諸賢にご一読を勧める。 (つづく)

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